名探偵コナン ハロウィンの花嫁
制作国:日本(2022)
日本公開日:2022年4月15日
上映時間:110分
監督:満仲勧
脚本:大倉崇裕
あらすじ:ハロウィンシーズンの東京・渋谷。コナンたち招待客に見守られながら、警視庁の佐藤刑事と高木刑事の結婚式が執り行われていたが、そこに暴漢が乱入。佐藤を守ろうとした高木がケガを負ってしまう。高木は無事だったが、佐藤には、3年前の連続爆破事件で思いを寄せていた松田刑事が殉職してしまった際に見えた死神のイメージが、高木に重なって見えた。一方、同じころ、その連続爆破事件の犯人が脱獄。公安警察の降谷零(安室透)が、同期である松田を葬った因縁の相手でもある相手を追い詰める。しかし、そこへ突然現れた謎の人物によって首輪型の爆弾をつけられてしまう。爆弾解除のため安室と会ったコナンは、今は亡き警察学校時代の同期メンバー達と、正体不明の仮装爆弾犯「プラーミャ」との間で起こった過去の事件の話を聞くが……。(映画.com)
評価:★★★★☆
◆感想(ネタバレなし)
今作の脚本を担当する大倉崇裕は『紺青の拳』の脚本も務めていました。私はコナンの劇場版にストーリーの面でのおもしろさはあまり求めていないので、脚本はあまり気にならないのですが、それにしたって『紺青の拳』はあまり脚本が良かったとは言えないので正直今作もあまり期待はしていませんでした。
しかし結論から言えば、今作はもちろんコナンの劇場版らしいつっこみどころはあるにしても、テーマが明確に絞られていてとても観やすい造りになっていたと思います。
今作のテーマは″亡くなってしまった人の思いは、生きている人の中に残っている”ということなのだと思います。今作はすでに亡くなってしまっている安室以外の「警察学校組」の話がフィーチャーされます。4月公開の映画でなぜ″ハロウィン”を題材にするのかずっと不思議だったのですが、本来のハロウィンは死者の霊が現世に戻ってくるというお祭りであることを考えると、実はこの舞台にもテーマに対する必然性がちゃんとあるわけです。BUMP OF CHIKENの主題歌『クロノスタシス』もこのテーマに凄く合っている曲で良かったと思います。エンドロールでこの曲が流れるなかで、安室がするある行動がベタなんだけど非常に良くて、独特の余韻を残してくれます。
私は最近の原作を追っていないので、「警察学校組」のことは知らなかったのですが、中盤の安室の回想で4人のことが語られるので、鑑賞には全く問題はありませんでした。この安室の回想は(つっこみどころが無いことも無いのですが)警察学校組のキャラクター達の使命感や能力の高さの表現として申し分ない上、その4人が力を合わせても取り逃がしてしまうほど犯人が強敵であることも表現できていて、お話の構成として非常に巧くはまっている場面だと思います。演出も不気味かつスリリングで、今作の全体の印象の良さの多くの部分はこの回想パートが担っているような気がします。
クライマックスのアクションの浮世離れ感というか馬鹿馬鹿しさはこれまで以上です(笑)。でも今作に関してはこれも大きなプラス要素になっていると思います。というのも今作の犯人「プラーニャ」はロシアを拠点とした爆弾犯なので、当然ロシア人という設定のゲストキャラクターも出てきます。昨今の情勢を考えるとロシア人キャラクターを描くのは難しいところだったと思うのですが、クライマックスの浮世離れ感がそれを中和してくれていたように思います。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
佐藤刑事と高木刑事の結婚式はただの演習だった。警察OBの村中が結婚式を挙げることになっているのだが、その村中のもとに脅迫状が届いており、結婚式の警護を捜査一課が務めることになっているのだった。
首輪型爆弾をつけられてしまった安室は公安の地下シェルターに自身を隔離し、そこにコナンを呼び出し。3年前に警察学校の同期達とプラーニャに遭遇した事件について語る。3年前、安室はプラーニャを取り逃がしてしまったものの、松田はプラーニャの2種の液体が混ざることで爆発する仕組みの爆弾を解除することに成功していた。
村中の婚約者のクリスティーヌに贈り物が届く。代理で受け取りに行ったコナンと少年探偵団だったが、それは3年前の事件と同じ仕組みの爆弾だった。コナンは爆弾に仕込まれた液体を採取し、間一髪のところで爆発から逃れる。コナンが採取した液体は公安によって解析が進められる。
コナン達が遭遇した爆弾事件の捜査をしていた千葉刑事が何者かに拉致される。犯人は交渉の窓口に松田を指定してくる。高木刑事が松田に変装し指定された場所へ向かう。千葉刑事を拉致したのは「ナーダ・ウニチトージティ」というロシアの民間人部隊だった。リーダーのエレニカを初め、メンバーは皆プラーニャに家族や友人を殺されており、目的はプラーニャへの復讐だった。エレニカはかつて松田がプラーニャの爆弾を解除したことを知っており、その知識を求めてきたのだった。捜査一課と公安警察が現場に踏み込み、千葉刑事の奪還に成功するも「ナーダ・ウニチトージティ」には逃げられてしまう。
参列者無しの状態で村中とクリスティーヌの結婚式が執り行われる。クリスティーヌの正体がプラーニャだと見抜いたコナンは、「ナーダ・ウニチトージティ」と首輪型爆弾の解除に成功した安室とともにプラーニャを追い詰め確保に成功する。しかし、プラーニャの爆弾は起動しており、渋屋のスクランブル交差点で2つの液体が混ざって爆発が起ころうとしていた。コナンはアガサ博士が新たに作った巨大ボール射出ベルトを使って二つの液体が混ざることを阻止する。実はコナンは7年前に萩原に会っており、その時の出来事から今回の方法を思いついたのだった。
◆感想(ネタバレあり)
公開前は″理想の花嫁”企画をめぐるゴタゴタがあったりもしましたが、蓋を開けてみればストーリー的にも″花嫁”はさほど重要じゃなかったという(笑)。本当にこの企画は”花嫁”とつけてしまったがために損をしましたね。
クライマックスの展開をわかりやすくするためにしょうがないことではあるのですが、プラーニャの爆弾がそんなに解除にてこずるような爆弾に見えないというのは、間違いなく文字通りのツッコミどころでしょう。2つの液体を混ぜなきゃいいだけなら最初からガムつっこんどけばいいじゃん、ってやっぱり思ってしまいます(笑)。
松田に扮する高木刑事がエレニカに啖呵を切る場面は、松田としての演技を続けつつも恐らく高木刑事の本心でもあるのだろうという発言で、めちゃくちゃカッコイイと思いました。欲を言えば同じ発言を、高木刑事は知らなかったけど、生前の松田も言っていたという場面が回想で描かれてたら、テーマにも即しているしもっとエモい場面になったのではないかと思いました。
ただ、総じてネタバレなしの感想のところに書いた通り、描きたいテーマに対してストーリーの筋としてはまとまっていたと思います。コナンの劇場版としてはややトリッキーなテーマだったと思いますが、巧く描けていたのではないでしょうか。
あと本筋と関係ないですが、怪我をした小五郎に病院の麻酔が全く効かなくて″耐性があるのかしら”と看護師が訝る場面は、原作に対するメタなつっこみになっていてめちゃくちゃおかしかったです。
◆まとめ
・”亡くなってしまった人の思いは、生きている人の中に残っている”ということがテーマ
・つっこみどころもあるがテーマに即した観やすい造りになっている
ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密
制作国:アメリカ(2022)
日本公開日:2022年4月8日
上映時間:143分
監督:デビッド・イェーツ
撮影:ジョージ・リッチモンド
出演:エディ・レッドメイン、ジュード・ロウ 他
あらすじ:魔法動物を愛するシャイでおっちょこちょいな魔法使いニュートが、恩師のアルバス・ダンブルドアや魔法使いの仲間たち、そして人間(マグル)と寄せ集めのチームを結成し、史上最悪の黒い魔法使いグリンデルバルドに立ち向かう。その中で、ダンブルドアと彼の一族に隠された秘密が明らかになる。(映画.comより)
評価:★☆☆☆☆
◆感想(ネタバレなし)
『ファンタスティックビースト』シリーズの第3作目です。元々3部作の予定だったのが5部作に延長されたので今作はちょうど折り返し地点ということになります。2年ごとに作られるはずだったそうですが、今作は前作の公開から4年経っています。映画評論家の添野さんの解説によると、パンデミックの影響に加えて、脚本の大幅な見直しがあったことで制作が遅れたようですね。
ただ、それほど大きな脚本の見直しがあったにも関わらずその成果はあまりでてないかな…というのが正直な感想です。これは前作にも感じたことなのですが(前作の感想は↓にあります)、続き物の割には新規の設定が唐突に出てきてしまうのです。よく考えると『ハリー・ポッター』もそういう傾向があったのですが、『ハリー・ポッター』では魔法界についての常識を知らないハリーがそれを学んでいく過程とセットだったのであまり気になりませんでした。今作ではその唐突に出てくる設定が登場人物全員にとっては初めから常識だったものとして描写されるので、なんとなく観客だけが置いてきぼりになる感じが否めなかったです。
お話の流れとしても不自然な部分があり、正直登場人物が何をしたいのかよくわからないところが多かったです。総じてやっぱり脚本に難がある作品だと思います。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
ニュートはダンブルドアの命で麒麟(日本語字幕では「キリン」になっていましたが、たぶんこの麒麟です)の赤ちゃんの救出に向かう。麒麟は人の魂を理解する生き物で善良な魂を持つものの前で跪くとされていた。双子の麒麟のうち一匹は確保するが、もう一匹はクリーデンスに奪われてしまう。
助手のバンディに麒麟を託し、ニュートは兄のテセウス、ホグワーツの呪文学の教師ラリー、マグルのジェイコブとともにベルリンに向かう。そこでドイツ摩法省の裏切りに直面し、グリンデルバルドが証拠不十分で無罪となってしまう。
グリンデルバルドはダンブルドアの殺害をクリーデンスに命じる。ダンブルドアはクリーデンスを圧倒するが、戦いの中でクリーデンスに余命がないこと、彼が兄のアバフォースの息子であることに気付く。
グリンデルバルドは魔法界のリーダーに立候補する。魔法界のリーダーは麒麟が跪いた人間がなることになっており、グリンデルバルドはクリーデンスが奪ってきた麒麟を殺し、その後自分の魔術で蘇生し自分の意のままに操れる麒麟を生み出す。一度はグリンデルバルドに決まりかけるが、ニュート達が生きている本物の麒麟を連れて現れ、その麒麟がダンブルドアと候補者の一人のサントスの前で跪いたことで、グリンデルバルドは退却を迫られる。
クリーデンスはアバフォースの元に戻り、クイニーはジェイコブと結婚することになる。クイニ―の結婚式にティナも現われ、ニュートと再会を果たす。
◆感想(ネタバレあり)
物語を進めるということに全労力が割かれてしまい、人物の描き方はスカスカだった気がします。
特に扱いがひどかったのがクイーデンスです。一作目では準主役級の扱いだったのに、作品が進むごとに扱いが雑になります(笑)。今作に至ってはアバフォースの息子であることともうすぐ死ぬことの”設定”しか描写されませんでした。正直、本人にはまったく記憶がない「ダンブルドア家」に彼がなぜこだわるのかこの話からわからなかったです。
クイニーもマグルと結婚できる世界を作りたくてグリンデルバルド側についたのに、終始グリンデルバルドに怯えているだけで、前作でなんでグリンデルバルド側についたのかますますわからないままでした。
魔法動物に関しても、不死鳥が死の近いものに灰を落とすとか、麒麟のお辞儀で魔法界のリーダーを選定するとか『ハリー・ポッター』シリーズの中で全く描かれなかった設定をいきなりここに持ち込んでくるので、時系列では後の話になる『ハリーポッター』のなかに矛盾やつっこみどころが出来てしまうので、これも止めて欲しいと思いました。特に麒麟がダンブルドアに跪くのはやめて欲しかったなと、ダンブルドアは確かに善人ですが、完全無欠の善人では無かったというのが今作で描かれていることですし『ハリー・ポッター』本編でも重要なところだったと思うので、この描写には何か裏切られた気がします。
ダンブルドアのジェイコブに対する扱いが割と雑なのも気になります。ダンブルドアがジェイコブに渡した杖は結局何の役にも立ちませんでしたし、自衛の手段のない彼をグリンデルバルドに何度も近づけるなんてリスクしかないのに平気でダンブルドアはそういうシチュエーションを作ります。はっきり言ってジェイコブが怒っていいのではないかと思うのですが(笑)。麒麟はダンブルドアよりもジェイコブに跪くべきでしょう。
唯一良かったのはグリンデルバルドを演じたマッツ・ミケルセンですね。ジョニー・デップより彼の方がどことなく哀愁があって合っていたような気がします。ただ、グリンデルバルドも結局『ハリー・ポッター』のヴィランのウォルデモートのようなただの悪い人になってしまっていたのが残念でした。呪術廻戦の夏油のように、彼には彼でヴィランである切実な理由が描かれていて欲しかったです。
◆まとめ
・前作同様唐突な設定が多い
・その割には人物の描きこみが甘く、脚本に難がある。
ウェディング・ハイ
制作国:日本(2022)
日本公開日:2022年3月12日
上映時間:117分
監督:大九明子
脚本:バカリズム
撮影:中村夏葉
あらすじ:お茶目だけど根は真面目な石川彰人と天真爛漫な新田遥のカップルは、敏腕ウェディングプランナーの中越真帆に支えられながら結婚式の準備を進め、ようやく式当日を迎える。新郎新婦の紹介VTRや主賓挨拶、乾杯の発声といった定番の演目に並々ならぬ情熱を注ぐ参列者たちだったが、熱すぎる思いが暴走し、式は思わぬ方向へと展開。新郎新婦からのSOSを受けた中越は、知恵と工夫で数々の難題に立ち向かうが、さらに遥の元恋人・裕也や謎の男・澤田も現れて……。(映画.comより)
評価:★★☆☆☆
◆感想(ネタバレなし)
バカリズムが脚本を担当したことで話題の今作ですが、私自身はお笑いは詳しくないもので、今作に関しては監督が『勝手に震えてろ』の大九明子監督ということで鑑賞してきました。感想は良かったところもあるけど、悪かったところのほうが多かった…という感じでした。
予告編やあらすじからは篠原涼子演じる中越が主人公で、彼女が新郎新婦の無茶な要望に悪戦苦闘する話という印象を受けますが、実際はちょっと違います。今作は実は群像劇になっていて視点が様々な人物に切り替わります。お話も大きく「式の準備の段階」「式の当日」「裕也の視点」の3部から成っており、このうち中越が主人公として動くのは真ん中の「式の当日」のパートのみなので、あまり全面的に主人公という感じではありません。
上で悪かったところの方が多かったと書きましたが、コメディとしてはウケているところもちゃんとありました。私自身も笑ってしまったところがあり、一定のおもしろさはあります。ただ、モノローグが多すぎることやちょっとテンポの悪さを感じるところもあり、特に終盤はダレてきてしまった印象は受けました。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
参列者の熱意が暴走し、乾杯の発声の段階で式が1時間が押してしまう。式場では後続の式の予定が組まれているので延長することはできない。BGMや料理の工夫で少しずつ時間を短縮し、新郎新婦の父親と友人達の計4組がやる予定だった余興は、コラボレーションという形で同時に行うことでどうにか間に合わせることに成功する。
一方、遥の元恋人・裕也が式場に遥を取り戻しにやってくる。裕也はそこで御祝儀泥棒の澤田に遭遇する。前日に食べた牡蠣が当たり腹痛と便意に苦しみながらも裕也は澤田を取り押さえることに成功する。
◆まとめ
・コメディとして一定のおもしろさはある。
・モノローグの多用やテンポの悪さが難点。
劇場版 呪術廻戦 0
制作国:日本(2021)
日本公開日:2021年12月24日
上映時間:105分
監督:朴性厚
脚本:瀬古浩司
美術監督:東潤一
あらすじ:高校生の乙骨憂太は、幼い頃、結婚を約束した幼なじみの祈本里香を交通事故により目の前で亡くしていた。それ以来、呪霊化した里香に取り憑かれるようになった乙骨は、暴走する彼女に周囲の人々を傷つけられ苦悩していた。そんな中、呪霊を祓う“呪術師”を育成する教育機関・東京都立呪術高等専門学校の教師にして最強の呪術師・五条悟に導かれ、乙骨は同校に転入することに。自身の手で里香の呪いを解くことを決意した乙骨は、同級生の禪院真希や狗巻棘、パンダと共に呪術師として歩みだすが……。共に呪術師として歩みだすが……。(映画.comより)
評価:★★★★☆
◆感想(ネタバレなし)
漫画もアニメも未見の状態で観に行ったのですがおもしろかったです。私のような完全ビギナーでも世界観や各キャラクターの考え方などがわかりやすい造りになっています。調べてみると今作の原作『呪術廻戦0 東京都立呪術高等専門学校』は本編の連載前に発表されていたものだそうで、ビギナーに優しい造りなのも納得でした。同じような大ヒットアニメの劇場版である『鬼滅の刃 無限列車編』は明らかに何かの話の途中から始まって、途中で終わる感じがしましたが、今作は原作が元々それ単体で作られたこともあってか、きっちりと一本で完結している感があります。
*以下ネタバレです。
◆ネタバレ
五条のかつて学友、夏油傑が新宿と京都で大規模虐殺「百鬼夜行」を行う。五条たちは夏油を阻止するために呪術師を両地へ派遣するが、それは呪術高専にいる乙骨周辺の呪術師を手薄にするための罠だった。乙骨を守ろうとした真希、狗巻、パンダは夏油によって重症を負ってしまう。乙骨は里香の力を借りて夏油を倒すことに成功する。乙骨は菅原道真の血を引く協力な呪力の持ち主で、呪霊化した里香に取り憑かれていたわけではなく、乙骨が里香に呪いをかけていたことがわかる。呪いが解かれた里香はあの世へと旅立つ。
◆感想(ネタバレあり)
多くの方が連想したと思いますが、話の造りが『ハリー・ポッター』とよく似ています。生まれついて特別な力を持つ主人公が、自分の力が受け容れられる世界を知って居場所を見つけて活躍するというのは、完全に『ハリー・ポッター』と同じです。しかもその居場所が学校であるというのも共通していますし、ヴィランである夏油の思想も『ハリーポッター』のヴィランのヴォルデモートと同じような思想です。
『ハリーポッター』より巧いと思ったのが、ヴィラン側がなぜそういう思想を持つのかということもちゃんと暗示されているということです。ヴィランが単に記号的な悪ではなく、彼らには彼らの切実さがあることまで描くあたりは凄く今日的なエンターテイメントとだと思いました。
細かいところですが、かつて五条と夏油が友人だったということが、単なる説明だけではなく「若い呪術師のことは大事に考えてる」という共通した行動を見せることによって示せているというのが巧いと思いました。これによって思想としては近いところもあるのに決定的に決裂してしまった切なさも、ミニマムな描写で表現できていると思いました。
◆まとめ
・前知識無しでも楽しめる
・話の造りが『ハリー・ポッター』にそっくり
ドリームプラン
制作国:アメリカ(2021)
日本公開日:2022年2月23日
上映時間:144分
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
脚本:ザック・ベイリン
撮影:ロバート・エルスウィット
出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス 他
日本語字幕監修:伊達公子
あらすじ:リチャード・ウィリアムズは優勝したテニスプレイヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿をテレビで見て、自分の子どもをテニスプレイヤーに育てることを決意する。テニスの経験がない彼は独学でテニスの教育法を研究して78ページにも及ぶ計画書を作成し、常識破りの計画を実行に移す。ギャングがはびこるカリフォルニア州コンプトンの公営テニスコートで、周囲からの批判や数々の問題に立ち向かいながら奮闘する父のもと、姉妹はその才能を開花させていく。(映画.comより)
評価:★★★★☆
◆感想(ネタバレなし)
今作に登場するウィリアムズ姉妹は90年代後半~2000年代初頭にかけてテニス界を席巻した姉妹です。本作のエンドロール手前でも出てきますが、姉のビーナスは41歳、妹のセリーナは40歳で、未だに現役の選手です。
とはいえ姉のビーナスのほうはこのところ勝てなくなってきており、ランキングは大きく落ちています(この記事をかいている時点で470位)。今年はまだ1大会も出ていません。恐らくそろそろ現役引退なのではないかと思います。
妹のセリーナの方も実力はまだまだトップレベルなのですが、昨年のウインブルドンで怪我をし、それ以降現在に至るまでその治療に専念してプレーはしていません(この記事を書いている時点でのランキングは237位)。一応復帰を目指しているということではあるのですが、40歳というのは選手としてはかなり高齢ですからこのまま引退の可能性もあるのではないかと思います。
前置きがなくなりましたが、一本のスポーツ映画としては割と王道の造りだと思います。144分と長尺ですが、割と展開が早いので私はそれほどその時間を感じることなく観ることができました。
テニスファンでもある私が最も驚いたのが、ビーナス・ウィリムズの打ち方(フォーム)の再現度度の高さです。ビーナスを演じたサナイヤ・シドニーが↓の動画でも語っていますが、ビーナスは非常にバックハンドの打ち方に特徴がある選手です。今作ではその打ち方が見事に再現されていました。一部は本当のテニス選手(今作ではアヤン・ブルームフィールドという選手がボディダブルを務めています)が演じているようですが、素晴らしい再現度だと思います。
再現度が素晴らしかったのはビーナスだけでなく、他にも登場するカプリアティとサンチェス=ビガリオ。この二人はあまりセリフの多い役ではないということで、本当のテニス選手をそのままキャスティングしているのですが、ビジュアルまでそっくりでびっくりしました。カプリアティはジェシカ・ワニック、サンチェス=ビガリオはマルセラ・サカリアスという選手が演じています。ただ、この二人の描き方については素直に喜べない部分もあって、それについてはネタバレありの方で書きたいと思います。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
リチャードの熱心な売り込みにより、マッケンローやサンプラスといったトッププロのコーチを務めるポール・コーエンが、ビーナスのみコーチをすることを引き受ける。取り残されたセリーナは母親とともに練習に励む。二人は才能を開花させジュニアの試合で活躍し、その名が多くのテニス関係者に知れ渡る。スポンサー契約を申し出る人達も現われるが、学業を優先し、普通の子供時代を過ごさせることを優先するリチャードはその誘いを断り、コーエンとの関係も解消する。リチャードは新たにフロリダでテニスアカデミーを経営するリック・メイシーと契約を結び、一家でフロリダに移り住む。リチャードはここでも娘を試合に出させようとしないが、とうとうその方針にビーナスが反発をする。オークランドの大会に主催者推薦でビーナスが出場することになる。ビーナスは1回戦でスタッフォードを破りプロ選手相手に初勝利を手にする。続く2回戦で第1シードのアランチャ・サンチェス=ビガリオと対戦。ビーナスは第1セット先取するが、サンチェス=ビガリオがトイレットブレークを取って試合が中断されたことで流れが一変し、逆転で敗れてしまう。失意のビーナスが会場を出るとビーナスのサインを求める沢山のファンが待ち受けていた。
◆感想(ネタバレあり)
ウィリムズ姉妹の強さが際立ったのは2002年で、この年は妹のセリーナが1位、姉のビーナスが2位をキープし続ける状態でした。父のリチャード氏がその状況を見て、“WTA(Women's Tennis Associationの略称)のWはWilliamsのWだ”と発言したことがあったのですが、あながちそれが冗談に聞こえないぐらい強かったのを覚えています。
今回の映画の話を聞いたときにてっきり私はその最盛期に至るまでを描くのかと思っていたのですが、今作はそれよりだいぶ手前、ビーナスが初めてプロツアーに参戦した1994年の出来事までで幕を下ろします。試合に負けて終わる話だったのも意外でしたし、セリーナではなくビーナスにフォーカスが当たった話だというのも意外でした。
さらに驚いたのが、制作総指揮にビーナスとセリーナ、さらに劇中にも登場した姉妹の一人のイシャが加わっている一方で、主人公であるリチャード氏には今作の制作の許諾を取っていないらしいです。それって大丈夫なんでしょうかね(笑)。
今作はハッピーエンドですが、実際のウィリアムズ家はその後全てが順調というわけにはいきませんでした。↑の町山智浩さんの話にもある通り、リチャードと妻のオラシーンはその後離婚してしまいますし、長女のタンディは銃で撃たれて亡くなってしまいます。
今作についてテニスファンでもある私がどうしても気になってしまうのが、大筋とはあまり関係ないところなのですが、カプリアティとサンチェス=ビカリオの描き方です。バーンアウトしてしまうカプリアティはウィリアムズ姉妹と対照的な失敗例として描かれていまし、最後にビーナスと対戦するサンチェス=ビカリオも割とヴィラン的に描かれてしまっています(トイレットブレーク自体はルール違反ではありません)。
劇中で逮捕されたカプリアティは、実際にはその後テニス選手として復帰し、90年代後半にウィリアムズ姉妹と覇権を争うようになります。しかし引退後、再び薬物使用によって逮捕されてしまいます。
サンチェス=ビカリオは2003年に現役を引退しましたが、現在は金銭面のトラブルに見舞われていると報じられています。
私が気になるのは、現在何かに苦しんでいる渦中にある実在の人物を、どうして映画の中で貶めるような描き方をしてしまったのかということです。カプリアティは出さなくたってお話として成立しますし、サンチェス=ビカリオだって単に強かったからビーナスに勝ったというだけで良かったように思います。
あと本当に細かいところだと、サンチェス=ビカリオ戦で主審が彼女のことを”ビカリオ”と呼んでいましたが、登録されている苗字を略して呼ぶことは実際にはしないので「サンチェス=ビカリオ」と呼ばれていたはずです。
◆まとめ
・王道スポーツ映画
・現在何かに苦しんでいる渦中にある実在の人物を映画の中で貶めないで欲しかった
仮面ライダーオーズ 10th 復活のコアメダル
*公開日前の作品のレビューになります。感想はネタバレなしとありに分けていますが、一切の情報を入れたくない方は読まないことをお勧めします。
制作国:日本(2022)
日本公開日:2022年3月12日
上映時間:58分
監督:田崎竜太
脚本:毛利亘宏
あらすじ:欲望から生まれた怪人グリードと戦い、人々の未来を守った仮面ライダーオーズこと火野映司が、相棒のアンクを復活させるべく旅に出てから10年の月日が流れた西暦2021年。古代オーズが800年の眠りからよみがえり、グリードのウヴァ、カザリ、メズール、ガメルを復活させた。世界が混沌と恐怖に包まれるなか、旅に出ていた火野映司が帰還する。しかし、古代オーズの力はすさまじく、人類は劣勢に立たされる。そんな折、「割れたコアメタル」に異変が起き、アンクが復活するが……。(映画.comより 一部改変)
評価:★☆☆☆☆
◆感想(ネタバレなし)
運良く舞台挨拶付き完成披露上映会を観ることができました。
『仮面ライダーオーズ』は非常に好きなドラマの一つです。それだけに10周年記念の続編が出来ると聞いたときには大変嬉しかったのですが、今作のクレジットにドラマシリーズのときのメインライターだった小林靖子の名前が無いことで一気に不安が増してしまいました。今作の脚本を手掛けるのは毛利亘宏。この方も一応サブライターとしてテレビ放送時の『オーズ』に関わっていたわけですが、小林靖子とは力量にだいぶ差があると個人的には感じていました。というのも『オーズ』の中では小林靖子が手掛けた回と毛利亘宏の回では、クレジットを見なくてもわかってしまうぐらい人物の描き方が違ったからです。もちろんあれから10年の月日が流れ、毛利亘宏だって脚本家として成長しているとは思うものの、『オーズ』の創造主である小林靖子ほどには上手くキャラクターを動かせないのではないかと思っていました。
また、私だけでなく多くのファンのジレンマだと思うのですが、新作が観られるのが嬉しい反面、小林靖子が最後に『オーズ』を書いた『仮面ライダー×仮面ライダー フォーゼ&オーズ MOVIE大戦 MEGA MAX』が非常に『オーズ』の物語として綺麗な着地を迎えた後に、果たして続編が必要なのかという問題があるわけです。既に『仮面ライダー平成ジェネレーションズFINAL』という必ずしも万人に受けたわけではない前例があっただけになおさら不安でした。このあたりのファンの気持ちは例によって結騎了さんのブログに、大変おもしろい記事があるのでそちらを参照して頂けると良いと思います。
そしてまあ、★の数を見ていただければ御察しのとおりなのですが、その不安は割と的中してしまいます。オーズファンの方々は覚悟して劇場に行かれることをお勧めします。
*以下ネタバレです。
◆ネタバレ
復活したアンクは映司と再会するが、映司は比奈たちに会うようにだけ言ってその場を去ってしまう。アンクは比奈と再会するが、そこで映司が古代オーズとの戦いで重症を負った後に行方不明になっていることを知る。アンクの案内で比奈、後藤、伊達は映司と再会を果たすが、その映司の正体は鴻上ファンデーションが生み出した人造グリード、ゴーダだった。映司自身は瀕死の状態であり、ゴーダがとりついていることでかろうじて生きている状態だった。ゴーダはアンクに共闘して古代オーズを倒すことを提案する。映司の命をコーダが握っているため、アンクたちは彼に協力するしかなかった。コーダは復活させた4人のグリードのコアメダルを奪い、その力を増大させアンクとゴーダに挑む。アンクはわざとオーズに取り込まれ、内側から紫のコアメダルを奪取し、ゴーダに渡す。コーダはその力でオーズを倒すが、古代オーズから発生したメダルをすべて取り込んで自身の肉体を手に入れる。放り出された映司の肉体にとりついたアンクはタジャドルコンボに変身し、ゴーダを倒す。映司はアンクを自分の身体から追い出すと比奈とアンクのまえで息を引き取る。
◆感想(ネタバレあり)
映司の死を描くことは別にダメではなかったと思うのですが、そこで話がバツっと終わってしまうのはいかがなものかと思います。
『オーズ』のストーリーの大事な様子の一つは“欲望こそが立ち止まってしまった人を動かすエネルギーである”というメッセージだと思うんですよね。そういう未来に向けて開かれた可能性を示唆しているところが『オーズ』の良さだったと思うのですが、今作は映司の欲望が成就し、満足して死んでしまうというものすごく閉じた終わり方をします。せめてこの部分が、映司の誰かに向けて手を伸ばしたいという欲望が誰かに引き継がれていく、というところまで描いてくれていたら今作の印象はかなり違ったのではないかと思うのです。
他にも、アンクが復活した理由が「映司が願ったから」でいいのかとか、アンクがもう1回映司の中に入れば映司は死なないんじゃないかとか、アンクがあの後タイムスリップして『MOVIE大戦 MEGA MAX』の世界に戻ったと思うと『MOVIE大戦 MEGA MAX』の後味が全然違うものになってしまうとか、いろいろ思うことはあったのですが、一番気になったのが前述のとおり今作の閉じた終わり方でした。
ストーリーと関係ないですが、グリードチームはせっかくオリジナルキャストをそろえたのなら、もう少し見せ場が欲しかったです。なんだか皆薄暗いところにいるせいで顔が良く見えなかったですし(それでもウヴァだけが優遇されているのがオーズっぽくはありましたが)。
せっかくなので舞台挨拶のことも少し触れたいと思います。映司が死んでしまうという結末は、キャスト陣も脚本を読んで初めて知ったようです。やはり衝撃が大きかったようで、君嶋麻耶さんは“賛否両論あると思う”と仰っていましたし、三浦涼介さんに至っては涙ながらに“最初は受け容れられなかった”と仰っていました。映司を演じた渡部秀も“旅人である映司が旅立ったのは嬉しい”と言いつつ涙をこらえていたので、皆それぞれ思うところはあったのではないかと思います。
実は高田里穂さんも泣いていらっしゃったのですが、こちらは映司のことというよりも無事に公開できることの喜びだったり、本当に『オーズ』お話としてはこれが最後になってしまうことの寂しさだったりが混ざり合った涙だったように見受けられました。
いずれにしてもキャストの方々には相当思い入れがあるようですね。それだけにやっぱり脚本を小林靖子に書いて欲しかった…というところにどうしても帰結してしまう作品でした。
◆まとめ
・今作の閉じた終わり方が、『オーズ』の本来の良さとそぐわない気がする。
・脚本を小林靖子に書いて欲しかった。
アンチャーテッド
制作国:アメリカ(2022)
日本公開日:2022年2月18日
上映時間:116分
監督:ルーベン・フライシャー
脚本:レイフ・ジャドキンス、アート・マーカム、マット・ホロウェイ
撮影:チョン・ジョンフン
出演:トム・ホランド、マーク・ウォルバーグ 他
あらすじ:ニューヨークでバーテンダーとして働くネイサン・ドレイク(ネイト) は、器用な手さばきを見込まれ、トレジャーハンターのビクター・サリバン(サリー) から、50億ドルの財宝を一緒に探さないかとスカウトされる。ネイトは、消息を絶った兄のことをサリーが知っていたことから、トレジャーハンターになることを決意する。同じく財宝を狙う組織との争奪戦の末に、手がかりとなるゴールドの十字架を手にしたネイトとサリーは、500年前に消えたとされる幻の海賊船へとたどり着くが……。(映画.comより)
評価:★★☆☆☆
◆感想(ネタバレなし)
ソニー制作、トム・ホランド主演、アクション映画、と三拍子揃ったら、どうしたって最近までやっていた『スパイダーマン』を連想してしまいます。事実画的に既視感のあるところも多く、「糸だせばいいのに」と思ってしまった場面が何度かありました(笑)。
今作は良くも悪くもトム・ホランドを堪能するための映画です。『スパイダーマン』のときには気づきませんでしたが、こんなにアクションの出来る役者さんなんですね。中でも白眉は中盤のパルクールアクションです。トム・ホランドの顔がしっかり映るように撮っていてスタントでないことが強調されていました。そして特に意味もなくトム・ホランドが上半身裸だったり、無駄に水に濡れるシーンが多かったりして、そっちの面でもサービスがいき届いています(笑)。
お話面に関しては起こる出来事も、人物の行動原理もリアリティとしては低めです。基本的にはアクションを楽しむものと思っていた方が良いと思います。
*以下ネタバレです。
◆ネタバレ
ネイトはサリーから紹介された別のトレジャーハンター、クロエと共にバルセロナの地下通路に入る。様々な仕掛けをクリアして宝の地図を手に入れるが、それをクロエに持ち逃げされてしまう。クロエは財宝を狙うモンカーダ家の内通者だった。しかし、同じくモンカーダ家に協力していたブラドックが雇い主のモンカーダを殺したことで、クロエはブラドックと袂を分かち、地図を取り返しにきたネイトと協力してモンカーダの飛行機から脱出する。地図を解読したネイトと、ネイトをアプリで追跡してきたサリーは財宝を乗せた2船の海賊船を発見するが、ネイトを尾行してきたブラドック達がやってきて船内に身を潜めなくてはならなくなる。ネイト達に気付かないままブラドックはヘリで海賊船を空輸する。ネイトとサリーは協力して海賊船1船を奪還し、空中で海賊船同士の戦いが始まる。戦いの末にラブドックは死に、海賊船は2船とも大破したが、二人は財宝の一部を手に入れることに成功した。
◆感想(ネタバレ)
この手のジャンル映画にあんまりリアリティを要求してもしょうがないのですが、スペインの地下にあんな仕組みのある通路がある時点で、財宝なんか目じゃないレベルでの大発見な気がしてしまいました。もうこんな通路がある時点でもっと驚けよ、と思ってしまいました。
あとこれを言っては元も子もないのですが、登場人物全員がマゼランの一行の財宝があることを疑いもせず信じている人ばっかりなので、全員ちょっと頭がおかしい人にしか見えないというか(笑)。その世界観に付いていくのに個人的には時間がかかりました。
ネイトとサリーのバディ感が最後だけとってつけたようにあるのも作劇としてはあまり巧くないと思います。サリーとネイトは別行動が多いので、この二人の絆がどこでそんなに深まったのかよくわからないままでした。
繰り返しになりますが、そんなに真面目に観てはいけないタイプの映画です。クライマックスでのヘリで吊るされた海賊船でのバトルなんて馬鹿丸出しというか(笑)、現代の設定だけど海賊船バトルはやりたい、という無茶を押し通してきた感じでした(笑)。
◆まとめ
・トム・ホランドを堪能するための映画
・お話も人物の実在感もリアリティとして低め