スパイダーマン ノー・ウェイ・ホーム
制作国:アメリカ(2021)
日本公開日:2022年1月7日
上映時間:149分
監督:ジョン・ワッツ
脚本:クリス・マッケンナ、エリック・ソマーズ
撮影:マウロ・フィオーレ
あらすじ:前作でホログラム技術を武器に操るミステリオを倒したピーターだったが、ミステリオが残した映像をタブロイド紙の「デイリー・ビューグル」が世界に公開したことでミステリオ殺害の容疑がかけられてしまったうえ、正体も暴かれてしまう。マスコミに騒ぎ立てられ、ピーターの生活は一変。身近な大切な人にも危険が及ぶことを恐れたピーターは、共にサノスと闘ったドクター・ストレンジに助力を求め、魔術の力で自分がスパイダーマンだと知られていない世界にしてほしいと頼むが……。(映画.comより)
評価:★★★★★
◆感想:ネタバレなし
全米公開から遅れること3週間、ようやっと日本で公開されました。ネタバレを踏まないように必死の3週間を過ごした人が、私を含めて沢山いたことと思います(笑)。
私は公開日の深夜の回に観に行ったのですが、映画館ロビーには私と同じ回を観る人達と、直前の回を見終えた人達が両方いる状態でした。映画館側はこの状況に配慮したのか、”『スパイダーマン ファー・フロム・ホーム』をご覧になったお客様、ロビーにはこれから映画を楽しみにしているお客様が沢山いますので、映画の内容についてお話にならないようお願いします”というアナウンスがされていました。映画館側の配慮が効いたのか、ファン同士の連帯感があったのかわかりませんが、いずれにしても私は上映まで一切のネタバレに合わずに過ごすことが出来ました。
ネタバレといっても正直に言えば、多くのファンは何が起こるのかは概ね予想はついていたと思います。それでも開映まで、そのネタバレを踏まないようにするというのは考えてみればなんだか不思議な時間でした。
ただ、結論から言えば今作はその多くのファンが予想していた「起こること」を超えてさらなる感動があったと思います。具体的に言えばスパイダーマンとは、″人助けをするヒーロー”なのだということが非常に端的に描かれているのです。
鑑賞にに際してMCU版以外のスパイダーマン、つまりサム・ライミ版スパイダーマン3作とアメイジング・スパイダーマン2作の視聴は必須です。逆にこの5作は観たけどMCUは未見という人は、序盤はきついと思いますが中盤にドクター・オクトパスが現れて以降は(たぶん)なんとかなるのではないかと思います。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
ピーターに頼まれたストレンジは魔術をかけはじめるが、途中でピーターがなんども自分のことを覚えていて欲しい例外の人をリクエストしたせいで魔術は失敗する。その結果ピーターの世界は他の次元とつながってしまい、スパイダーマンの正体がピーター・パーカーだと知っている人物が、吸い寄せられてくる。ストレンジに渡された魔法のウェブシューターによってピーターは別の次元からやってきた5人、ノーマン・オズボーン、オットー・オクタビアス、フリント・マルコ、カート・コナーズ、マックス・ディロンを拘束することに成功する。しかし、彼らを元の次元に戻すとそれぞれの次元のスパイダーマンに殺されてしまうことをしったピーターはストレンジに反発。彼らを治癒しスパイダーマンと戦わなくて済むようにしたうえでそれぞれの世界に戻そうとする。一番最初の被験者だったオクタビアスの治療には成功するが、オズボーン(グリーン・ゴブリン)の裏切りにあったことでメイおばさんが命を落としてしまう。失意のピーターのもとに彼とは別の世界からきたスパイダーマン2人が現れ、ピーターを励まし、治療の作戦を継続することになる。どうにか残りの4人も治療することが出来たが、戦いの最中に魔術を閉じ込めておいたボックスが破壊され、ストレンジの力では多次元への扉を抑えきれなくなってしまう。ピーターは全世界の人が自分を忘れるようにして欲しいとストレンジに依頼。他のスパイダーマン2人と、MJ、ネッドに別れを告げる。ストレンジの魔術が作用し、誰もピーターのことを知らない世界になる。ピーターはMJの店を訪れ、事の次第を説明しようとするが、MITへの進学が決まり未来への期待をふくらませるMJとネッドを見て何も言わずに店を立ち去る。一人ぐらしのアパートに引っ越したピーターは、ミシンで自作した新しいスーツを身にまといニューヨークの街をスウィングしていく。
◆感想(ネタバレあり)
まず何と言ってもトビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドのスパイダーマンの再演について触れないわけにはいきません。多くのファンが一度は妄想したであろう歴代スパイダーマンの共演を本当に実現させてくれた作り手に本当に感謝したいと思います。特に私は世代的にトビー・マグワイア版には非常に思い入れがあるので、また彼が演じるスパイダーマンを観ることが出来たのは感無量でした。
ただ、今作の良いところは単に過去作のキャラクターを出すというサービスに終始するのではなく、そのうえでスパイダーマンの本質はヴィランを倒すことではなく“人を助けること”だと強く表明する作品になっているところです。その意味ではやむにやまれぬ事情でヴィランになってしまった人達だって救われるべきで存在であり、今作はかつて倒すという形でしか事態を収められなかったマグワイア・スパイダーマンとガーフィールド・スパイダーマンにとっての救いの物語としても機能していて、過去のスパイダーマン作品の着地としても完璧に近いものだったと思います。個人的にはマグワイア・ピーターとオクタビアスの再会シーンでオクタビアスの“大きくなったな”のセリフには、長い歳月を経て理想の着地にたどり着い二人を見る思いで感動しました。
細かいことを言えばサンドマンは『スパイダーマン3』で和解が成立していたので、もう少し味方よりに描いて欲しかったと。ホランド・スパイダーマンとは対立してもマグワイア・スパイダーマンと再会したところで味方になって欲しかったと思いました。あとはマグワイア・スパイダーマンの“Hang on!!"のセリフが聞きたかったなとか、いろいろ細かい希望はあるのですが、もうここまでやってくれたら目をつむりたいとおもいます。
育ての親から“大いなる力には大いなる責任が伴う”という言葉を受け、誰も自分のことを知らない世界の中でピーターはお手製のスーツを着て街へ飛び出していきます。これで過去作のスパイダーマンと同じ境遇になったことになり、この作品こそがトム・ホランドのピーターの新たなオリジンとなるという位置づけなのでしょう。街へ出ていく直前でアップになるMJのお店のカップに書かれた文字”We are happy to serve you"はそれぞれの世界のスパイダーマンの思いであり、彼もまたその思いと肩を並べたという結末なのだと思います。
映画評論家の添野知生さんによると、一応SONYがMCU(ディズニー)と組んでスパイダーマンを作るのは一旦ここで終了ということのようです。トム・ホランドがスパイダーマンを続投するか否かは正式な決定はまだされていないようですね。ここで終わるのも美しい気がするし、もう少し幸せな未来をピーターに作って欲しい気もするしなんとも言えないところです。
◆まとめ
・スパイダーマンの本質は”人を助けること”であると強く表明する作品
・サム・ライミ版スパイダーマン、アメイジング・スパイダーマンの続編としても見事な着地