制作国:アメリカ(2021)
日本公開日:2022年2月23日
上映時間:144分
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
脚本:ザック・ベイリン
撮影:ロバート・エルスウィット
出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス 他
日本語字幕監修:伊達公子
あらすじ:リチャード・ウィリアムズは優勝したテニスプレイヤーが4万ドルの小切手を受け取る姿をテレビで見て、自分の子どもをテニスプレイヤーに育てることを決意する。テニスの経験がない彼は独学でテニスの教育法を研究して78ページにも及ぶ計画書を作成し、常識破りの計画を実行に移す。ギャングがはびこるカリフォルニア州コンプトンの公営テニスコートで、周囲からの批判や数々の問題に立ち向かいながら奮闘する父のもと、姉妹はその才能を開花させていく。(映画.comより)
評価:★★★★☆
◆感想(ネタバレなし)
今作に登場するウィリアムズ姉妹は90年代後半~2000年代初頭にかけてテニス界を席巻した姉妹です。本作のエンドロール手前でも出てきますが、姉のビーナスは41歳、妹のセリーナは40歳で、未だに現役の選手です。
とはいえ姉のビーナスのほうはこのところ勝てなくなってきており、ランキングは大きく落ちています(この記事をかいている時点で470位)。今年はまだ1大会も出ていません。恐らくそろそろ現役引退なのではないかと思います。
妹のセリーナの方も実力はまだまだトップレベルなのですが、昨年のウインブルドンで怪我をし、それ以降現在に至るまでその治療に専念してプレーはしていません(この記事を書いている時点でのランキングは237位)。一応復帰を目指しているということではあるのですが、40歳というのは選手としてはかなり高齢ですからこのまま引退の可能性もあるのではないかと思います。
前置きがなくなりましたが、一本のスポーツ映画としては割と王道の造りだと思います。144分と長尺ですが、割と展開が早いので私はそれほどその時間を感じることなく観ることができました。
テニスファンでもある私が最も驚いたのが、ビーナス・ウィリムズの打ち方(フォーム)の再現度度の高さです。ビーナスを演じたサナイヤ・シドニーが↓の動画でも語っていますが、ビーナスは非常にバックハンドの打ち方に特徴がある選手です。今作ではその打ち方が見事に再現されていました。一部は本当のテニス選手(今作ではアヤン・ブルームフィールドという選手がボディダブルを務めています)が演じているようですが、素晴らしい再現度だと思います。
再現度が素晴らしかったのはビーナスだけでなく、他にも登場するカプリアティとサンチェス=ビガリオ。この二人はあまりセリフの多い役ではないということで、本当のテニス選手をそのままキャスティングしているのですが、ビジュアルまでそっくりでびっくりしました。カプリアティはジェシカ・ワニック、サンチェス=ビガリオはマルセラ・サカリアスという選手が演じています。ただ、この二人の描き方については素直に喜べない部分もあって、それについてはネタバレありの方で書きたいと思います。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
リチャードの熱心な売り込みにより、マッケンローやサンプラスといったトッププロのコーチを務めるポール・コーエンが、ビーナスのみコーチをすることを引き受ける。取り残されたセリーナは母親とともに練習に励む。二人は才能を開花させジュニアの試合で活躍し、その名が多くのテニス関係者に知れ渡る。スポンサー契約を申し出る人達も現われるが、学業を優先し、普通の子供時代を過ごさせることを優先するリチャードはその誘いを断り、コーエンとの関係も解消する。リチャードは新たにフロリダでテニスアカデミーを経営するリック・メイシーと契約を結び、一家でフロリダに移り住む。リチャードはここでも娘を試合に出させようとしないが、とうとうその方針にビーナスが反発をする。オークランドの大会に主催者推薦でビーナスが出場することになる。ビーナスは1回戦でスタッフォードを破りプロ選手相手に初勝利を手にする。続く2回戦で第1シードのアランチャ・サンチェス=ビガリオと対戦。ビーナスは第1セット先取するが、サンチェス=ビガリオがトイレットブレークを取って試合が中断されたことで流れが一変し、逆転で敗れてしまう。失意のビーナスが会場を出るとビーナスのサインを求める沢山のファンが待ち受けていた。
◆感想(ネタバレあり)
ウィリムズ姉妹の強さが際立ったのは2002年で、この年は妹のセリーナが1位、姉のビーナスが2位をキープし続ける状態でした。父のリチャード氏がその状況を見て、“WTA(Women's Tennis Associationの略称)のWはWilliamsのWだ”と発言したことがあったのですが、あながちそれが冗談に聞こえないぐらい強かったのを覚えています。
今回の映画の話を聞いたときにてっきり私はその最盛期に至るまでを描くのかと思っていたのですが、今作はそれよりだいぶ手前、ビーナスが初めてプロツアーに参戦した1994年の出来事までで幕を下ろします。試合に負けて終わる話だったのも意外でしたし、セリーナではなくビーナスにフォーカスが当たった話だというのも意外でした。
さらに驚いたのが、制作総指揮にビーナスとセリーナ、さらに劇中にも登場した姉妹の一人のイシャが加わっている一方で、主人公であるリチャード氏には今作の制作の許諾を取っていないらしいです。それって大丈夫なんでしょうかね(笑)。
今作はハッピーエンドですが、実際のウィリアムズ家はその後全てが順調というわけにはいきませんでした。↑の町山智浩さんの話にもある通り、リチャードと妻のオラシーンはその後離婚してしまいますし、長女のタンディは銃で撃たれて亡くなってしまいます。
今作についてテニスファンでもある私がどうしても気になってしまうのが、大筋とはあまり関係ないところなのですが、カプリアティとサンチェス=ビカリオの描き方です。バーンアウトしてしまうカプリアティはウィリアムズ姉妹と対照的な失敗例として描かれていまし、最後にビーナスと対戦するサンチェス=ビカリオも割とヴィラン的に描かれてしまっています(トイレットブレーク自体はルール違反ではありません)。
劇中で逮捕されたカプリアティは、実際にはその後テニス選手として復帰し、90年代後半にウィリアムズ姉妹と覇権を争うようになります。しかし引退後、再び薬物使用によって逮捕されてしまいます。
サンチェス=ビカリオは2003年に現役を引退しましたが、現在は金銭面のトラブルに見舞われていると報じられています。
私が気になるのは、現在何かに苦しんでいる渦中にある実在の人物を、どうして映画の中で貶めるような描き方をしてしまったのかということです。カプリアティは出さなくたってお話として成立しますし、サンチェス=ビカリオだって単に強かったからビーナスに勝ったというだけで良かったように思います。
あと本当に細かいところだと、サンチェス=ビカリオ戦で主審が彼女のことを”ビカリオ”と呼んでいましたが、登録されている苗字を略して呼ぶことは実際にはしないので「サンチェス=ビカリオ」と呼ばれていたはずです。
◆まとめ
・王道スポーツ映画
・現在何かに苦しんでいる渦中にある実在の人物を映画の中で貶めないで欲しかった