潜水服は蛾の夢を見る

主に映画の感想を語るブログです

名探偵コナン 黒鉄の魚影


www.youtube.com

制作国:日本(2023)

日本公開日:2023年4月14日

上映時間:109分

監督:立川譲

総作画監督須藤昌朋

脚本:櫻井武晴

声の出演:高山みなみ 林原めぐみ 他

あらすじ:世界中の警察が持つ防犯カメラをつなぐ海洋施設「パシフィック・ブイ」が東京・八丈島近海に建設され、本格稼働に向けて世界各国のエンジニアが集結。顔認証システムを応用した、ある新技術のテストが行われていた。一方、コナンたち少年探偵団は、園子の招待で八丈島にホエールウォッチングに来ていた。するとコナンのもとへ沖矢昴(赤井秀一)から、ユーロポールの職員が、ドイツで黒づくめの組織のジンに殺害されたという知らせが入る。不穏に思ったコナンはパシフィック・ブイに潜入するが、そこでひとりの女性エンジニアが黒ずくめの組織に誘拐される事件が発生。そして、八丈島に宿泊していた灰原のもとにも黒い影が忍び寄る。(映画.comより)

 

評価:★★★★★

 

感想(ネタバレあり)

コナンの劇場版はもう26作目になるんですね。今作はメインヒロインである蘭を追い抜いて人気があると言われるもう一人のヒロイン、灰原哀にスポットを当ててがっつりと稼ぎに来ています(笑)エンドクレジットでも「江戸川コナン 高山みなみ」の次は「灰原哀 林原めぐみ」でしたから、名実ともに今作の準主役です。

 

まあ、蘭より灰原の方が人気が出てしまうというのは、シリーズがここまで長期化した以上、避けられないことのような気がします。連載が始まったばかりのころは「コナンの正体がいつ蘭に露見するか」とか「想い合っているのに会えない二人の切なさ」を見せ場にできましたが、長い連載のなかでそれらの要素はコナンと蘭というキャラクターの単なる設定に落ち着いてしまっています。

 

一方で灰原はコナンの正体を知っている上に、物語全体の縦軸である「黒の組織との対決」という要素に直接的に絡むことができるので、物語の推進力として機能しやすいキャラクターになっています。組織との対決をコナンが済ませるのを健気に待ち続けている蘭より、コナンと一緒に事態の解決に挑める灰原というのは今の時代ともマッチしたヒロイン像なのも事実でしょう。

 

その灰原が今作ではコナンの目前で黒の組織によって誘拐されるという、劇場版でも屈指の大ピンチを迎えます。今作では黒の組織ヴィランとしてちゃんと怖いのですとにかくここが今作を映画としておもしろくしていると思います。

 

灰原をさらわれるくだりでは蘭の空手とコナンの推理力という2つの力をもってしてもコナン側が負けてしまうという、これまでの劇場版の約束破りが起こります。それもコナンの弱点であり、組織にとっては最大の強みである「武力」の差を見せつけられる形での敗北になり、シリーズを通して最大級に絶望的な事態に陥ります。灰原と対面するのが劇場版オリジナルのキャラクターではなく、レギュラーのウォッカであるところも絶望感を増します。

 

今作の映画として一番出来が良いと思ったのが、その後に出てくる直美の父の狙撃シーンです。ここはかなりショッキングな展開で、もう少しで狙撃を阻止出来そうだったのに出来なかったうえに、コナンや直美はそれをただ見ていることしか出来ないという絶望感があります。この見ていることしかできないというのは映画を観ている観客も同じ立場に置かれてしまう演出なので、非常に見せ方として巧いと思いました。(その分エンドクレジットでの実は死んでませんでしたというのはちょっと拍子抜けでしたが、まあ少年漫画だししょうがない。)

 

灰原救出の際には海の中にいる灰原に向けてコナンが潜っていき、クライマックスではそれが逆転して海の中にいるコナンに向けて灰原が潜っていきます。このエモーショナルな流れからの、今作で最も話題をさらうであろう灰原とコナンのキス(人口呼吸)、手をつないでの浮上、それとともに流れる挿入歌『君がいれば』と怒涛の畳み掛けが待っています。劇場版だがらこそ出来ることであり、ブコメとしては負けヒロインが確定してしまっている灰原に対する公式からの最大限の優しさでしょう。こうでもしない限り、灰原はコナンの唇を奪うことはできないわけなので。

 

ストーリーの面では例によって細かいつっこみどころはあります。ピンガがユーロポールの職員に顔を見られたことはあんなに問題視していたのに、蘭には顔を見られて格闘戦にまでなっていることは問題視されないとか、灰原を生きたまま連れ出すことを目的にしていたなら狙撃手のキャンティは何をしにきていたかとか、ジンには安全に潜水艦に乗ってもらうとか言いながら結構危なそうな方法だったりとか(笑)個人的にちょっとストーリー面で弱い気がしたのは、結局灰原を乗せた潜水艦をもう一度発見できたのは完全に偶然だったことです。どこかに浮上してくるということはわかっていたわけなので、なんでもいいからその位置を割り出す推理をコナンがしていれば、武力で迫る組織に対しもう一度コナンが知力で対抗するという構図が出来たように思います。ただ、今作はそういう細かい粗を灰原とコナンの関係性のエモさで押し切ってくる作品でした。

 

ただ、そのせいでこの作品が嫌いという人もいるような気がして、その気持ちも大変良くわかります。いわゆる「コ哀」と称される非公式カップリングを推す層に対する過剰接待な感じが凄くするせいで、逆にちょっと二次創作っぽいというか、公式にここまでして欲しくなかったという人も当然いるでしょう。

 

個人的には灰原とコナンの公式イチャイチャは全然ありなので(笑)ここはあまり問題にはなりませんでした。むしろ黒の組織の怖さをきちんと描くことで作品としてのおもしろさを底上げしてきた点を評価したいと思います。近年のコナンの映画では間違いなく屈指の出来栄えだと思います。

 

~追記~

おまけの夜の動画が良かったので添付します。

www.youtube.com