ウエスト・サイド・ストーリー
制作国:アメリカ(2021)
日本公開日:2022年2月11日
上映時間:157分
脚本:トニー・クシュナー
撮影:ヤヌス・カミンスキー
出演:アンセル・エルゴート、レイチェル・セグラー 他
あらすじ:1950年代のニューヨーク。マンハッタンのウエスト・サイドには、夢や成功を求めて世界中から多くの移民が集まっていた。社会の分断の中で差別や貧困に直面した若者たちは同胞の仲間と集団をつくり、各グループは対立しあう。特にポーランド系移民の「ジェッツ」とプエルトリコ系移民の「シャークス」は激しく敵対していた。そんな中、ジェッツの元リーダーであるトニーは、シャークスのリーダーの妹マリアと運命的な恋に落ちる。ふたりの禁断の愛は、多くの人々の運命を変えていく。(映画.comより)
評価:★★★☆☆
◆感想(ネタバレなし)
元はブロードウェイのミュージカルで、1961年の『ウエスト・サイド物語』のリメイクである本作ですが、私は舞台版も映画も全て未見で完全に今回が初めての鑑賞でした。感想としては時代背景を知ってないとおもしろく観るのは難しいのではないかというのが正直なところです。↓の添野知生さんの解説は非常にわかりやすかったので鑑賞前に視聴をオススメします。
以下、その解説を簡単にまとめたいと思います。ウエストサイドという地域はニューヨークのマンハッタンの一部であり、当時は貧しい白人層と移民労働者が暮らしていた地域です。いわゆるスラム街であり、どちらも他に居場所のない白人層と移民労働者の対立が実際にあったようですね。
ヒロインであるマリアはプエルトリコ系移民ですが、1940年代後半~1950年代にかけてプエルトリコからの移民が職を求めて大量に移り住んできたという経緯があります。恥ずかしながら私はこの解説で初めてプエルトリコが国ではないことを知りました。添野さんの仰る通りアメリカの自自連邦区という扱いで、一応アメリカ領という扱いのようです。Wikipediaによるとアメリカに対する納税義務はないが、大統領の投票権も無いという体制らしいですね。
ストーリーとしてはリアリティの面できついところがあります。ここを気にせず観られるかどうかが好みの分かれ道な気がします。個人的にはミュージカルというある種の寓話化、抽象化がなされていたことであまり気にならずに観ることが出来ました。以前、このブログでも取り上げた『ディア・エヴァン・ハンセン』とは別の意味できちんとミュージカルであることの意味があったと思います。
また、あえて劇中の部屋の造りや照明の当て方を舞台っぽくしていたのではないかと思います。これもひとつの抽象化として機能していたように思いました。
今作で主人公トニーを演じるのは『ベイビー・ドライバー』で主人公を演じたアンセル・エルゴート。歌がめちゃくちゃ上手かったです。音域に凄く幅があってびっくりしました。もう一人の主人公マリアを演じるのはレイチェル・セグラー。この方はオーディションで選ばれた新人で、元はyoutubeの歌唱動画で注目を集めた女子高生で、それをきっかけに演技の道に入ってきたというイマドキっぽいキャリアの持ち主です。撮影当時は20歳ですが、どこかあどけなさが残る表情でありつつ芯の強さも感じる演技でまさに適役だったと思います。
ただ、その二人を食ってしまうほどの魅力を放っていたのが、アニータ役のアリアナ・デボーズ。今作で第94回アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされています。ブロードウェイ俳優ということで演技も歌唱も素晴らしかったですが、圧巻だったのがダンスです。「マンボ」と「アメリカ」の2曲で彼女のダンスは特にフィーチャーされるのですが、ここでのパフォーマンスが素晴らしくて全編を通じて彼女のダンスシーンが最も印象に残りました。↓の動画でも彼女のパフォーマンスが絶賛されていますね。
忘れてはならないのが、バレンティーナ役のリタ・モレノです。この方は1961年版のアニータ役を演じていた役者さんなんだそうですね。なんと90歳で本作に出演されています。全然そうは見えないです。今作のバレンティーナはオリジナルには無かった役所らしいですが、彼女の歌唱シーンが一番今作のテーマを集約している部分で、もの凄く重要なキャラクターを演じています。出演だけでなく制作総指揮にも加わっています。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
ダンスパーティーで出会ったトニーとマリアは一目で互いに惹かれ合う。しかし、マリアの兄ベルナルドは白人のトニーがマリアに近づいたことに激怒し、それが発端で「ジェッツ」と「シャークス」が翌日の夜に決闘することになってしまう。決闘を止めるためトニーもその現場に向かうが、兄弟分のリフがベルナルドに刺し殺されてしまったことに激高し、ベルナルドを刺し殺してしまう。事態に警察が介入したことで両陣営とも身を隠さなければならなくなる。ベルナルドの友人だったチノは銃を手にし、復讐のためトニーを捜しに行く
トニーはマリアに別れを告げに行くが、その現場をマリアの友人でベルナルドの恋人だったアニータに見られてしまう。アニータはトニーをかくまっていたバレンティーナに、トニーとマリアの関係を知ったチノがマリアを撃ち殺したと嘘をつく。バレンティーナから話を聞かされたトニーは夜の街へ飛び出す。マリアはトニーを見つけるが、同じタイミングでチノがトニーを撃ち、トニーはマリアの目の前で息を引き取る。
◆感想(ネタバレあり)
一緒に観た人の指摘で気付いたのですが、今作はたった2日間の出来事なんですね。主人公の二人に関して言えば、出会った日の翌日の夜にはもう死別という超高速展開です(笑)。主人公二人ののキャラクターの感情の動きとしては結構無理がある展開なので、昨今のキャラ立ちが重視されるエンタメに慣れている層の人には合わない部分も多いと思います。事実近くの席に座っていた大学生と思われるグループはつまらなさそうにしてました(笑)。
だからこそ、前述の通り時代背景の知識は一応入れてから鑑賞の方が、どんなことが描かれているのかわかりやすいので良いと思います。今作は主人公二人の悲恋というよりも、どこにも居場所が無くなってしまった人たちの暴力の連鎖が止まらない悲劇の方がより力点の置かれている話だと思います。結果的には最初は一番暴力から遠いところにいたチノが引き金を引くことになってしまうというのが、どちらかと言えば悲劇の中心のように思いました。
◆まとめ
・歴史的な背景を知ってからみるのがおすすめ。
・アリアナ・デボーズのダンスシーンが見事