潜水服は蛾の夢を見る

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青くて痛くて脆い

【映画パンフレット】青くて痛くて脆い 監督 狩山俊輔 キャスト 吉沢亮、杉咲花、岡山天音、松本穂香、清水尋也、森七菜、茅島みずき

制作国:日本(2020年)

劇場公開日:2020年8月28日

上映時間:118分

監督:狩山俊輔

脚本:杉原憲明

撮影:花村也寸志

出演:吉沢亮 杉咲花 他

あらすじ:コミュニケーションが苦手で他人と距離を置いてしまう田端楓と、理想を目指すあまり空気の読めない発言を連発して周囲から浮いている秋好寿乃。ひとりぼっち同士の大学生2人は「世界を変える」という大それた目標を掲げる秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げるが、秋好は「この世界」からいなくなってしまった。その後のモアイは、当初の理想とはかけ離れた、コネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルへ成り下がってしまう。そして、取り残されてしまった田端の怒りや憎しみが暴走する。どんな手段を使ってもモアイを破壊し、秋好がかなえたかった夢を取り戻すため、田端は親友や後輩と手を組んで「モアイ奪還計画」を企てる。(映画.comより)


『青くて痛くて脆い』予告【8月28日(金)公開】

 

評価:★★★★☆

 

◆感想(ネタバレなし)

『君の膵臓を食べたい』の住野よるの原作小説の映画化です。『キミスイ』とは違うテイストの話であることが宣伝では強調されていますが、蓋を開けてみると“周囲と距離を取っている男の子が天真爛漫な女の子と出会って揺さぶられる”という大枠は『キミスイ』と同じような話で、住野よるという小説家の作家性をみた気がしました。

 

人によって評価が分かれる作品だと思います。私の近くにいた女性3人組は揃ってつまらなかったと言っていました(笑)。そういう人がいる気持ちもわかる気がします。というのも今作は中盤で大きな物語的な転換があり、この転換が嫌な人も一定数いるとは思います。

*以下ネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ネタバレ

楓(吉沢亮)はひそかに秋好(杉咲花)に思いを寄せるようになっていたが、秋好はモアイの3人目のメンバーを支援してくれる大学院生の脇坂(柄本佑)と付き合い始める。その意味で秋好は楓の「世界」からいなくなったのだった。楓はモアイの幹部テン(清水尋也)が企業にモアイのメンバーのメールアドレスを無断で渡していたことを突き止める。そのことをネットに上げたことでモアイは解散となる。秋好と久しぶりに対峙した楓は、自分が一方的に秋好を恨みつづけていたに過ぎないことに気づく。

 

◆感想(ネタバレあり)

中盤で実は秋好が生きていたという事実が描かれることで、壮大なサスペンスだと思っていた話が、実は主人公の非常に鬱屈した小さな復讐劇であることが観客に明らかにされます。正直に言うとこの場面までのサスペンス的なパートにワクワクしていた分、予想外に早く来たオチとその内容にがっかりしたのは否めません。ただ、観終わってしばらくすると、このサスペンスパートにも結構意味があったと考えるようになりました。具体的には、あの序盤の展開は楓にとって世界がどう見えているかを観客に示すパートだったのではないかと思うのです。傍から見たら完全にただの独り相撲である復讐劇は、楓にとってはあのぐらい壮絶かつ切実なものだったのだということなのでしょう。

 

序盤のサスペンスパートは観客の心理が完全に楓の主観と同化しするように作られています。そこに秋好が死んではいないという事実が挿入されることで、それまで完全に楓に入り込んでいた観客の心が一気に客観性を取り戻して、楓の心から離れていくように今作はできています。そのため、主人公の心理に完全に没入して映画を観たいタイプの人には向かないのかもしれません。

 

今作の大きなテーマは「関係性の変化を恐れない」ということのような気がしています。物語の冒頭で主人公楓のモットーである″人の意見を否定しなければ争いにならない”ということが語られますが、楓はその裏返しとして”誰かに同意を得られること”に強い渇望を頂いていることが見て取れます。そして自分に同意してくれた相手とはずっとそのままの関係が続くような期待を抱いてしまっています。だからこそ一度互いの孤独を分かり合えたと思った秋好が独りぼっちでなくなったときに″切り捨てられた”と感じてしまうし、一緒にモアイを潰そうとしていた天音がテンと親しくなることにも激高してしまうのです。

 

その点、今作で楓とは相対的に大人として描かれる脇坂やポンはより人間関係に対して柔軟な人物として描かれます。ポンは相手によって自分の態度を使い分ける自分を全く否定しませんが、それは相手に認められるのが自分の全部でなく一部で構わないと思っているからこそです。より直接的に楓を励ます脇坂も”間に合わせ”の関係が決して軽蔑すべきものではないことを語ります。

 

ただの理想家だった秋好が、理想をかなえるための現実主義者に成長したように、人は変わっていくものです。それに合わせて人間関係だって揺れ動いていくべきものなのだとわからなかった楓こそが「青くて痛くて脆かった」のだと痛感する話になっています。

 

ただ、相手に同意を得られたい渇望だったり、同意してくれた相手とずっと全てが分かり合えるような気がしてしまうことだったりというのは必ずしも青春時代に限らないことのような気がします。楓は確かにダメな人間なのですが、一方的に楓のことを笑ったり出来ない身につまされる物語だと感じました。

 

どうしても気になってしまったのが、川原さんを演じた茅島みずきの演技です。演技経験が少ないためしょうがないことではあるのですが、やっぱり他の演者さんと比べて凄く下手なのが目立ってしまいました。15歳で大学生を演じて違和感を感じさせないというのはすごいことではあるので、今後良くなっていくことに期待したいと思います。

 

◆まとめ

・人間関係の在り方について割と身につまされる映画

・主人公の感情に没入したいタイプの人には向かない