潜水服は蛾の夢を見る

主に映画の感想を語るブログです

1917 命をかけた伝令

1917

制作国:イギリス・アメリカ(2019)

上映時間:119分

日本公開日:2020年2月14日

監督:サム・メンデス

脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウイルソンケアンズ

撮影:ロジャー・ディーキンス

出演:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン 他

あらすじ:1917年4月、フランスの西部戦線では防衛線を挟んでドイツ軍と連合国軍のにらみ合いが続き、消耗戦を繰り返していた。そんな中、若きイギリス兵のスコフィールドとブレイクは、撤退したドイツ軍を追撃中のマッケンジー大佐の部隊に重要なメッセージを届ける任務を与えられる。(映画.comより)


『1917 命をかけた伝令』予告

 

評価:★★★★☆

 

◆感想(ネタバレなし)

第92回アカデミー賞で10部門(作品賞、監督賞、脚本賞、視覚効果賞、美術賞、音響編集賞、録音賞、メイクアップ・ヘアスタイリング賞、作曲賞)ノミネートされ、撮影賞、録音賞、視覚効果賞で獲得した作品です。作品賞に関しては惜しくも逃してしまいましたが、受賞作の『パラサイト』か本作のどちらかだろうというのが事前の大方の見解だったようで、いずれにしても大変評価の高い作品であることには変わりません。

 

上記の映画.com特集サイトには“全編ワンカット”という記載がされていますが、シネマンドレイクさんのブログによると本当にワンカットで撮っているわけではなくワンカットで“撮ったようにみえる”ようにつなげているということのようです(「ワンショット」というそうです)。作中ではところどころ木や瓦礫で登場人物が見切れる場面があり、恐らくこうしたところで実はカットが割れているのだと思います。また、誰が観ても明らかにカットが割れているとわかる場面が実は一ヶ所出てきます。

eiga.com

cinemandrake.com

少し中身に踏み込んだ話をすると、今作はわかりやすいドラマチック展開や伏線の回収はありません。とにかくひたすら戦地を命がけで進んでいく伝令の道中を描いていくだけですわかりやすい展開が無い分、次に何が起こるのか読めないのでずっと緊張感が続きます。この緊張感とワンショットであることゆえの没入感を楽しむ映画だと言えると思います。個人的にこういう心臓に悪いタイプの映画(戦争映画とかパニック映画とか)は苦手なので結構私はしんどかったのですが(笑)作品としてクオリティはとても高くて、観たことのないものを観た感はありました。

*以下ネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ネタバレ

伝令としてスコフィールドとブレイクがマッケンジー大佐に伝えるのは攻撃の中止命令だった。撤退するドイツ軍を大佐の部隊が追撃していたが実はこれがドイツ軍の罠で、追撃してきた英軍を迎撃する用意があることがわかったためだった。マッケンジー大佐の部隊にはブレイクの兄がいることもあって二人は先を急ぐ。しかし、道中で撃墜された戦闘機に乗っていたドイツ兵を救助しようとして逆に襲われてしまい、ブレイクは命を落とす。スコフィールドは一人戦地を進み、マッケンジー大佐の部隊にたどり着く。既に第一波は突撃を始めてしまっていたが、大佐に攻撃中止を伝え、ブレイクの兄とも会うことができた。

 

◆感想(ネタバレあり)

ネタバレなしの感想に述べたように、今作にはいわゆるドラマチックな展開はありません。唯一地下室でフランス人の女性と会うシーンだけ違う言語で話す割には結構意思疎通が取れたりして、この映画全体のトーンからすると少し浮世離れした感がある気がしました。ただ、このシーンで出会う女性も赤ちゃんも特に後の展開には絡まないので、主人公の道中の一幕として他の場面と同列なのは変わりません。ちなみにこの場面で赤ちゃんは普通の食べ物が食べられないからミルクが必要、と言う女性にスコフィールドがミルク=牛乳をあげるというシーンがあるのですが、これは違うミルクなんじゃないかと思ったり…。調べてみたら案の定1歳未満の赤ちゃんが牛乳を飲むのは良くないみたいです。もちろん作り手だってわかって描いているのでしょう。今作で数少ない平和的場面なのですが、結局あの赤ちゃんは栄養が十分取れずに死んでしまった可能性が高いと思うとなんだかしょんぼりしてしまいます。

www.meg-snow.com

(戦争映画をあまり観たことがないので今作に限らず戦争映画はみんなこうなのかもしれませんが、)ちょっとホッとする場面があったと思うと急にピンチになるという展開が続きます。特に意地悪なのが序盤のドイツ軍の塹壕のシーンです。敵が本当に撤退しているのかわからない状態で塹壕に接近し、どうやら撤退してもう敵がいない、と思ってホッとしてたらネズミが動いたせいで爆弾が爆発してしまいます。「伏線のある危険はない」ということがここで明確に示されるので、これ以降も一見して安全そうに見える場面でも緊張感から逃れられません。でも戦地にいるということはすべからかくそういうことですから、ワンショットという表現方法ともよくマッチした展開なのだと思います。

 

アカデミー賞の結果で話題の上では『パラサイト』の陰に隠れてしまった感が否めませんが、良い映画だと思います。ただ、緊張感の続く話なのであんまり疲れたときの鑑賞はお勧めしません(笑)

 

◆まとめ

わかりやすい展開が無い分、次に何が起こるのか読めないのでずっと緊張感が続く。

・緊張感とワンショットの没入感を楽しむ映画。