羊の木
制作国:日本
劇場公開日:2018年2月3日
上映時間:126分
監督:吉田大八
脚本:香川まさひと
撮影:芦澤明子
あらすじ:寂れた港町・魚深にそれぞれ移住して来た6人の男女。彼らの受け入れを担当することになった市役所職員・月末は、これが過疎問題を解決するために町が身元引受人となって元受刑者を受け入れる、国家の極秘プロジェクトだと知る。月末や町の住人、そして6人にもそれぞれの経歴は明かされなかったが、やがて月末は、6人全員が元殺人犯だという事実を知ってしまう。そんな中、港で起きた死亡事故をきっかけに、町の住人たちと6人の運命が交錯しはじめる。(映画.com より)
評価:★★★☆☆
◆感想(ネタバレなし)
予告編はミステリーっぽいですが、本編は全然違います。ミステリー要素はほとんど皆無だと言っていいと思うので、そこはあまり期待しないほうが良いでしょう。ジャンルとしては一応サスペンスということのようですが、序盤はコメディ色が強めです。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
港で起きた死亡事故は殺人ではなく病死だったことがわかる。そんな中で魚深の伝統的な祭りのろろ祭りが開かれる。祭りの場には6人移住者全員が参加していた。移住者の一人の福元(水澤伸吾)が酔っ払って暴れだし、同じく移住者の宮越(松田龍平)がそれを止める。その様子を見ていた杉山(北村一輝)は宮越が元殺人犯であることを確信する。祭りの様子は全国紙の写真に掲載されていた。そこに移った宮越の写真を見て、目黒(深水三章)が魚深にやってくる。目黒はかつて宮越に息子を殺されていた。目黒は宮越を見つけるが、逆に宮越に殺されてしまう。その様子は杉山によって写真に撮られていた。脅迫を受けた宮越は杉山も殺害する。その夜、宮越は月末(錦戸亮)と共に岬へ向かう。のろろ様に捧げる生贄として二人の人間を投げ入れるとどちらかだけは助かる、という伝承がその岬にはあった。宮越は殺人犯であり続ける自分と、殺人を許せない月末のどちらかが消えるしかないと言って月末とともに岬から飛び込む。先に上がってきた宮越の上に岬にあったのろろ様の像が落下し、月末だけが助かる。
◆感想(ネタバレあり)
この作品のテーマは「理解しあえる喜びと、その表裏にある理解しあえない悲しみ」なのではないかと思います。
6人の移住者のうち4人は自ら自分が何をしたかを他者に語る場面があります。殺人という大きな罪を犯してなお、人は他者に理解されたいという渇望を止められないということなのではないかと感じました。
作中で最もわかりやすい悪人だったのは北村一輝演じる杉山だったと思いますが、彼は悪事を働こうと画策するときに一緒にやってくれる協力者を求める場面が(2回も)あります。別に犯罪なら彼一人でやっても良さそうなものですが、何故か彼はそうしません。彼もまた他者に理解されることを求めていたからなのではないかと思います。
理解しあえない悲しみの最たるものが宮越が迎える顛末です。殺人を犯した後に「疲れた」という感想しか抱けないのも、月末と友達になりたくてギターを買ったのも、文のことが好きだったのも、多分全部本当の彼だったのでしょう。
全体的に良い作品だと思いますが、気になる点が無かったわけでもありません。
舞台となる魚深の街ですが、正直そんなに過疎の町に見えませんでした(ロケ地は富山県みたいです)。新幹線の止まる駅があるみたいだし、“人が集まらない”と劇中で言われていたお祭りも結構賑わっていたように感じてしまいました。また、魚深が“小さな町”であるということが少なくとも劇中で2回は言われていましたが、この規模感もあまり伝わってはきませんでした。
市川実日子の演じた栗本という登場人物がストーリーの大筋にはほとんど絡まないのも、市川実日子のミステリアスな感じが今作の雰囲気とよくマッチしていただけに残念でした。今作のテーマが他者を理解するということなので、すべての登場人物について説明がされてしまうというのは、むしろテーマに背く行為だったのかもしれませんが、さすがにお祭りの場面以外に主要キャストとの絡みが全くないというのはいくらなんでも少なかったと思います。
◆まとめ
・理解しあえる喜びと理解できない悲しみがテーマの映画
・舞台が過疎地に見えないこと、市川実日子の演じた役がストーリーの大筋にほとんど絡まないのが残念。