DUNE デューン 砂の惑星
制作国:アメリカ(2021)
上映時間:155分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーブ
脚本:ジョン・スパイツ、ドゥニ・ヴィルヌーブ、エリック・ロス
撮影:グレイグ・フレイザー
出演:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン 他
あらすじ:人類が地球以外の惑星に移住し、宇宙帝国を築いていた西暦1万190年、1つの惑星を1つの大領家が治める厳格な身分制度が敷かれる中、レト・アトレイデス公爵は通称デューンと呼ばれる砂漠の惑星アラキスを治めることになった。アラキスは抗老化作用を持つ香料メランジの唯一の生産地であるため、アトレイデス家に莫大な利益をもたらすはずだった。しかし、デューンに乗り込んだレト公爵を待っていたのはメランジの採掘権を持つハルコンネン家と皇帝が結託した陰謀だった。やがてレト公爵は殺され、妻のジェシカと息子のポールも命を狙われることなる。(映画.comより)
評価:★★★☆☆
◆感想(ネタバレなし)
原作未読、過去の映像化作品も一切観たことのないまっさらな状態で鑑賞しました。なんと言っても世界観の作りこみが素晴らしいです。下の動画の添野知生さんの仰る通り”エキゾチズム”というやつですね。
世界観という点で私のお気に入りは後半にちょっとだけ現れる砂漠のネズミです。朝の気温が低い時間に、大きな耳で空気中の霧から水滴を集めるというシーンがあるのですが、実はこれは実在する”サカダチゴミムシダマシ”という昆虫の習性なんです。こういう細かいところでの生物の実在感が、個人的にはSF映画で大事なことのような気がします。
ただ、お話の面ではいくら2部作の予定とはいえ、非常に中途半端なところで終わった印象は否めませんでした。一応アクションのパートもあるのですが、それも含めて割と淡々と進んでいく感じの映画です。正直言って予告編の印象とちょっと違いました。いわゆる「ハリウッドの大作映画を観に行くぞ」という構えでは行かない方がいい気がします。あくまで2部作の前編なので、今回は本当に主人公ポールがどんな人物で、とんな世界で暮らしているのかということの壮大な説明ということなのだと思います。
また、私のような完全なDUNE素人にとっては用語についていくのが少し難しく感じました。私と同じように前知識の無い方は↓のシネマンドレイクさんの感想ブログにある用語の解説だけでも読んでから観た方が良いと思います。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
ハルコンネン家の奇襲からポールとジェシカはどうにか砂漠に逃げ出すことに成功する。配下のダンカンやフレメン(惑星アラキスの先住民)を愛するカインズ博士らの助けを借りて一度は身を隠すことに成功するが、そこもサーダカー(皇帝の近衛隊)に襲撃され、ダンカンとカインズ博士は命を落とす。逃げ出したポールとジェシカは、レト公爵と盟約を結んだフレメン、スティルガーの一団と出会う。その中にはポールの夢に何度も出てきた少女チャニの姿もあった。部族の一人との決闘を経てポールとジェシカは仲間として受け入れられ、旅が続いていく。
◆まとめ
・世界観の作りこみが見事
・あくまで2部作の全編、割と淡々としていて、話も中途半端なところで終わる
セックス・エデュケーション シーズン3
制作国:イギリス
日本公開日:2021年9月17日(シーズン3/Netflixにて配信)
監督:ベン・テイラー 他
脚本:ローリー・ナン、ソフィー・グットハート 他
出演:エイサ・バターフィールド、ジリアン・アンダーソン 他
あらすじ:ムーアデール校の新学期。生徒達の欲情が炸裂する中、新校長が就任。オーティスは口ひげを生やし、秘密を胸に登校。ジーンは真実を告げる。(第1話)
評価:★★★★☆
◆感想(ネタバレなし)
待ちに待った新シーズンがやってきました(シーズン1,2の感想は↓)。今シーズンもこれまで同様「自分が真に求めているものは何かを考える」と「他者とのコミュニケーション」をテーマにしていますが、それに加えて今シーズンは「”こうあるべき”からの脱却」ということにフォーカスが当たっていたように思います。
*以下ネタバレを含みます
◆ネタバレ
オーティスは夏休みの間にルビーと体だけのカジュアルな関係になる。しかし、そのことにオーティスは疑問を持ち始めルビーと正式に付き合い始める。ルビーも次第にオーティスに心を開いていくが、ルビーの「愛してる」にオーティスが「愛している」を返せなかったことがきっかけで二人の関係は破綻してしまう。
ジーンはヤコブに子供が出来たことを伝える。二人は家族として子供を育てることに決め、ヤコブとオーラがオーティスの家に移り住むことになる。
メイブはアイザックからオーティスの留守電を消したことを聞かされる。一度はアイザックに幻滅したメイブだが、彼の誠実な一面にも触れ、次第に距離を縮めていく。
新校長のホープはセックス学校という異名のついたムーアデール校を変えるべく、制服着用の義務化、頭髪や装飾の制限など校則を厳格化する。しかし、学校外では彼女は不妊治療が上手くいかないことに悩んでいた。
ムーアデール校を解任されたグロフは就職活動と高慢な兄に悩まされる。そんな中で実は料理が好きな自分の一面に気付いていく。
ムーアデール校のフランスへの修学旅行が始まる。ひょんなことからバスに乗り遅れたオーティスとメイブは二人きりになってしまう。アイザックが消した留守電の内容をオーティスから直接聞かされたメイブは思わずオーティスとキスをしてしまい、アイザックとの間で揺れ動く。
皆が修学旅行に行っている間にエリックは親族の結婚式に出るためナイジェリアへ向かう。そこでエリックは現地の同性愛者のコミュニティに参加し、案内してくれたオバとキスをしてしまう。帰国しアダムと再会したエリックは自身のゲイとしてのアイデンティティの在り方がアダムとは決定的にずれてしまっていることを自覚し、アダムに別れを告げる。
失意の中アダムは愛犬マダムと共に犬の競技会(アジリティ)に参加。入賞を逃すが、主催者から健闘を称えられる。
ムーアデール校の一般公開日、ホープはセックス学校の汚名を返上しようと奮闘するが、ヴィブとジャクソンが中心になって準備した生徒達が高らかにセックス高校を誇る催しが披露され、ホープは翌日から学校から姿を消す。この出来事をきっかけにムーアデール校の出資者が手を引いてしまったので、ムーアデール校は廃校になることは決まる。
ジャクソンはノンバイナリーのキャルと恋仲になる。しかし、ジャクソンはどうしてもキャルを女性として扱ってしまう。そのことの対処の方法が見つからず。二人は関係を終わらせる。
メイブはオーティスと付き合うことを決める。しかし、その時メイブのもとにアメリカへの留学プログラムの合格通知が届く。経済的な理由でメイブはそれを断ろうとするが、メイブの母が資金を調達してきたことでそれが叶うようになる。メイブはオーティスに決意を告げてアメリカへ向かう。
ジーンが女の子を出産する。その婦人科にホープも来ていた。ホープを励ますオーティスの対応にジーンは息子の成長を感じる。オーティスはもう一度学校でセラピーを始める決意を母に語る。オーティスの去った病室にジーンの出産した赤ちゃんのDNA鑑定書が届く。封を開けたジーンは息を飲んで…。
◆感想(ネタバレあり)
なんと言っても感動的だったのは最終話でアダムが犬の競技会に出て評価される場面です。恐らくシリーズを通して初めて彼が得意なことを人から褒められた場面だったのはでないかと思います。ここは思わず落涙してしまいました。
象徴的なのはやはり制服の導入です。この作品の大きな魅力だった鮮やかな衣装が全部グレー一色になってしまい、ビジュアル的には大きな変化がありました。
制服を初めホープが導入した校則の厳格化ですが、考えてみるとここでの校則は日本の高校では割とよくあるものばかりです。でも、浮世離れするほどリベラルだったムーアデール校にこれが導入されると急に窮屈になった気がしてしまいます。この一連の校則はこうあるべきという“型”のメタファーなのではないかと思います。だからこそその型にはっきりとノーを突き付けるムーアデール校の一般公開日は大きなカタルシスがあります。男らしいとか、女らしいとか、学生らしいといった漠然と世の中が求めるものではなく、それぞれがなりたいものになればいいという高らかな宣言のように思いました。
ただ、正直ちょっと不満だったところもあります。それは登場人物の数に対して話数が少なすぎるということ。そのせいで何人かは描き方が中途半端になってしまった印象です。ルビーはこれまで描かれなかった彼女の繊細な内面が描かれたにも関わらず、オーティスとの破局後に極端に出番が減ってしまいますし、前シーズンで活躍したヴィブもジャクソンとの絡みが激減したことで随分出番が減ってしまいました。アイザックとメイヴの関係性の描き方ももう少し厚みが欲しかったです。
また、ムーアデール校の一般公開日は確かに盛り上がる話なのですが、生徒たちが一致団結して舞台を準備する過程を、もう少し描いてくれていたらもっと上がったのになぁと思いました。
まあ、要するに“もっと見せて!!”ということなのですが(笑)。総じて今シーズンも非常におもしろかったです。そんな私の期待通りシーズン4の制作が決まりました。大好きなキャラクター達との再会が今から楽しみです。
◆まとめ
・「”こうあるべき”からの脱却」ということがテーマになっている。
・今シーズンも非常におもしろかった
・話数が少なすくて描き方が中途半端になってしまったところがあるのが残念
かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦 ファイナル
制作国:日本(2021)
日本公開日:2021年8月20日
上映時間:116分
監督:河合勇人
脚本:徳永友一
撮影:花村也寸志
出演:平野紫耀、橋本環奈 他
あらすじ:将来を嘱望されるエリートたちが通う私立秀知院学園で、史上最も白熱する戦いとなった「第68期生徒会選挙」。引き続き生徒会長に白銀御幸、副会長に四宮かぐやが就任し、会計監査の伊井野ミコを新メンバーに迎えて第68期生徒会が始動する。互いに惹かれ合いながらも「自分から告白したほうが負けである」という呪縛からいまだに逃れられない白銀とかぐやは、神聖なる生徒会室で“いかにして相手に告白させるか”の恋愛バトルを繰り広げるが……。(映画.comより)
評価:★★★☆☆
◆感想(ネタバレなし)
青春恋愛映画というジャンルはまず続編が作られないジャンルです。基本的に登場人物の恋愛が成就するまでのお話ですから作りようがないということなのでしょう。その意味で『かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦』は異色の作品だと言えます。続編を知ったときには驚きました(もっとも前作は結局二人の恋愛バトルは続くという結末だったので続編が作れる素地はあったわけですが)。
お話的には前作のほぼ直後から始まるのですが、その割に映画の公開は前作との間にだいぶ期間が空きました。これは私の推測なのですが、企画自体は前からあって公開ももっと早い予定だったものが、コロナウイルスのパンデミックの影響で制作が後ろにずれこんだのではないかと思います。
私は前作の内容を全く覚えていなかったのでAmazon primeでしっかり復習してから臨みました。そして思い出しました。特に中身らしい中身はない作品だったことを(笑)
でもこれはそのままこのシリーズの強みでもあります。結局この手のジャンルの映画は「美男美女がイチャイチャする様を愛でる」ための映画であり、ストーリー自体はどれもそれほどおもしろみが無いことがほとんどです。その点、『かぐや様は告らせたい』は割り切りのはっきりした作品で、前作も今作もストーリーをまともに語るということは放棄しています。なにしろ冒頭からテロップで右下に″ナレーション 佐藤二郎”と出てきます。この時点で観ている人に“真面目に観る映画じゃありませんよ”というエクスキューズをしています。これ以降もやたらとテロップやナレーションが出てきますし、演出も過剰で、いわゆるリアリティのある人間を描こうということはしていません。その一方で主演の二人の平野紫耀、橋本環奈のキュートさは全面的に押し出しており、良くも悪くもその一点で勝負する作品です。
ジャンルの需要の中核だけで勝負するという点では『ゴジラ vs コング』に近い…のかも?
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
白金はアメリカの大学に進学することになる。文化祭の日に白金はかぐやだけに伝わる方法で彼女を時計台に呼び出し、一緒にアメリカに進学しないかと言うが、かぐやはそれを断りその翌日から失踪してしまう。時が経ち、アメリカの大学を訪れた白金は先回りして進学していたかぐやと再会する。白金はかぐやに告白する。
◆感想(ネタバレなし)
白金とかぐやのキュートさを愛でるのがこの作品の肝なのですが、その点ではちょっと後退してしまったような気がします。中盤の石上の過去についてのくだりは(Wikipediaによると原作にある展開らしいですが)、無くてもいいからもっと白金とかぐやのイチャイチャを見せて欲しかったなと。この石上の件を通してかぐやが白金の優しさを再認識し、思いを一段と募らせるというお話上の意味は一応あったわけですが、もともとストーリーテリングには労力を割いていない作品ですし、かぐやが白金を好きというのは前作からの大前提なので今更付け足さなくても良かったのではないかと思います。
エンドロールでKing & Princeの『恋降る月夜に君想ふ』にのせて生徒会メンバーが踊るのですが、ここはこの作品らしい多幸感があって良かったです。ただ振り返るとこのダンスが一番印象に残ったのも事実で、やっぱり前作同様それほど中身のある映画では無かったです(笑)。とはいえ、終始テンション高く気楽に楽しく観られる映画ではありました。この映画に求められることにはきっちり応えたつくりにはなっていたと思います。
公開に先立ちAmazon Primeで『かぐや様は告らせたい 天才たちの恋愛頭脳戦 ミニ』という一話10分程度のショートストーリーが配信されているのですが、正直こっちのほうがおもしろかったなと。今作は白金とかぐやがイチャイチャするシュチュエーションを楽しむ作品なので、長尺の映画よりもどんどんそのシュチュエーションを量産してくれる短編の連続のほうがあっているように思います。
◆まとめ
・前作同様それほど中身はない
・この映画に求められることにはきっちり応えたつくりにはなっていた
竜とそばかすの姫
制作国:日本(2021年)
上映時間:121分
日本公開日:2021年7月16日
監督:細田守
脚本:細田守
声の出演:中村佳穂、成田凌 他
あらすじ:高知県の自然豊かな田舎町。17歳の女子高生すずは幼い頃に母を事故で亡くし、父と2人で暮らしている。母と一緒に歌うことが大好きだった彼女は、母の死をきっかけに歌うことができなくなり、現実の世界に心を閉ざすようになっていた。ある日、友人に誘われ全世界で50億人以上が集う仮想世界「U(ユー)」に参加することになったすずは、「ベル」というアバターで「U」の世界に足を踏み入れる。仮想世界では自然と歌うことができ、自作の歌を披露するうちにベルは世界中から注目される存在となっていく。そんな彼女の前に、 「U」の世界で恐れられている竜の姿をした謎の存在が現れる。(映画.comより)
評価:★★★☆☆
◆感想(ネタバレなし)
細田守作品は『時をかける少女』『サマーウォーズ』『おおかみこどもの雨と雪』『バケモノの子』『未来のミライ』を観ています。今作と同じインターネットの世界を描いた『サマーウォーズ』、直近の作品である『未来のミライ』にはあまり乗れなかったので、今作は期待半分、不安半分という感じで鑑賞しました。結論としては、その2作よりはおもしろかったけど、全体としてはあまり乗れない作品でした。
多くの人が同じことを考えたのではないかと思いますが、この話は”細田守流アレンジの美女と野獣”なのだと思います。だから主人公すずのアバターの名前がベルなのでしょう。『美女と野獣』は醜い野獣は実は美しい王子様でしたという話なのに対し、今作美しい歌姫のアバターの正体は実は田舎の普通の女の子、というわけです。
お話面にはあまり乗れなかった私ですが、演技、演出は良かったと思います。これについてはネタバレありの感想で述べたいと思います。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
ベルはすずの友達、ひろちゃんのプロデュースのもとUの中でも最大規模のライブを行うが、その会場に竜が乱入してくる。竜はUの中で数々の道場破りをしているアバターで恐れられる存在だった。竜のアンベイル(=現実社会で何者なのかを暴くこと)を目論むジャスティンとの戦いが繰り広げられるが、竜は会場から逃げ出す。この出来事以降、竜のことが気になるようになったすずはひろちゃんと共にりゅうのことを調べ、Uの中で城と呼ばれている竜の棲み処を見つけ出す。最初はベルを拒絶する竜だが、すずが竜のためだけに作った歌を聞くなどして次第に心を許すようになる。しかし、竜の城はジャスティンの知るところとなり、城は焼き討ちされてしまう。ベルは竜を助けに向かうが、竜は姿を消す。竜は子供達から人気があったため、世界中の子供達が竜を支援する動画をアップする。すずはその中に、自分と竜しか知るはずのないメロディを口ずさむ男の子の動画を見つける。その動画の中にその子の兄、恵も現れる。恵こそが竜だった。恵の家は父子家庭で、兄弟は父親からの虐待にあっていた。LIVE配信で虐待の事実を知ったすず達は恵を助けようとする。すずの同級生しのぶくん、カミシン、ルカちゃんの活躍で恵の居場所を特定したすずは、自ら兄弟のもとに向かい二人を助け出す。戻ってきたすずは同級生、合唱仲間のおばさん達、父親と自分大切にしてくれている人達に出迎えられる。
◆感想(ネタバレあり)
クライマックスの展開がかなり気になりました。虐待の事実に気付く→恵は「助ける」というすずを信用しない→信頼を取り戻すために歌う決断をする→恵の父親の妨害に合う→兄弟の居場所をどうにか特定する→48時間以上経たないと保護されないことがわかる→自ら東京に行く、というこの流れは本当にスリリングかつエモーショナルで良かったのですが、いざ東京に着いた後は割とあっさり事態が解決してしまいます。実際には虐待されている子供を救うというのは大変なことですし、ここに至るまでの恵の訴えの切実さにはリアリティがあったので、この解決のあっさりさ加減は拍子抜けでした。
良かったのは竜と恵が相手を拒絶するシーン。どちらもカメラが大きく顔に寄って非常に圧迫感があり、演じている佐藤健の上手さもあって、思わずスクリーンの前でみをすくめてしまうような迫力でした。
そしてなんと言ってもお父さんがすずを送り出す場面です。ここではお父さんのメール(LINE?)の文面が、演じる役所広司の声だけで表現されるのですが、このお父さんの不器用ながらも愛情を持って娘を育ててきた感じが短い場面で凝縮されていて、不覚にも落涙してしまいました。個人的にはすずの好物が刺身ではなく“たたき”であることが結構ポイントな気がしていて、ただの刺身ではなくひと手間加えなくてはいけない“たたき”を作るというところにお父さんの愛情が表現されているのではないかと思います。
◆まとめ
・クライマックスの展開には不満
・演技・演出は総じて良かった。
ゴジラ vs コング
制作国:アメリカ(2021)
日本公開日:2021年7月2日
上映時間:114分
監督:アダム・ヴィンガード
脚本:エリック・ピアソン、マックス・ボレンスタイン
撮影:ベン・セレシン
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、ミリー・ボビー・ブラウン 他
あらすじ:モンスターの戦いで壊滅的な被害を受けた地球。人類は各地で再建を計り、特務機関モナークは未知の土地で危険な任務にあたりながら、巨大怪獣のルーツの手がかりを掴もうとしていた。そんななか、ゴジラが深海の暗闇から再び姿を現し、世界を危機へ陥れる。人類は対抗措置として、コングを髑髏島(スカルアイランド)から連れ出す。人類の生き残りをかけた戦いは、やがてゴジラ対コングという未曽有の対決を引き起こす。(映画.comより)
評価:★★★☆☆
◆感想(ネタバレなし)
本当は5月16日に公開だったはずの今作ですが、ようやっと観ることが出来ました。”良いところも悪いところも『キング・オブ・モンスターズ』に似ている”と思いました。
良いところはキャラクターとしての怪獣の描き方です。これは上述の感想でも書きましたが、このモンスターバースの好きなところは正義の味方である怪獣をてらいもなく描き切る姿勢にあります。これについては今作でもしっかり踏襲されていて、このシリーズとしての明確な方針なのでもあると思います。これだけでも個人的には満足でした。
一方で前作でも良くなかったお話の面は前作以上に苦しいです(笑)。とにかくあらゆる設定と登場人物の行動をゴジラとコングを戦わせるという舞台作りに“かなり強引な形で”寄与させる作りになっています。
前作に乗れた人はは乗れるし、乗れなかった人は乗れない作りだと思います。その意味ではシリーズとしての一貫性のあるまっとうな続編の気がします。
以下ネタバレです
◆ネタバレ
巨大生物の発生源と考えられる地球の中心の空洞には膨大なエネルギーに満ちていることがわかる。密かにメカゴジラを開発していたAPEX社のシモンズ(デミアン・ビチル)は、メカゴジラの動力源としてそのエネルギーを狙い、研究者のリンド(アレクサンダー・スカルスガルド)をそそのかす。リンドは旧知の中であるコングの研究者アンドリュース(レベッカ・ホール)を説き伏せ、コングを使って地球の空洞にあるエネルギー源の在処を探そうとする。道中でコングの宿敵であるゴジラの襲撃を受けるが、どうにか一行は空洞への入り口がある南極にたどり着く。空洞を進んだ先には緑の大地が広がっていて、その先にはエネルギーの塊があった。
一方、ゴジラはメカゴジラの気配を察知し、APEX社がメカゴジラの研究をしている香港に上陸する。空洞に人間が侵入した気配を察したゴジラは地中に向けて熱戦を吐き、香港から空洞に至る巨大な穴が空く。コングは穴を伝って香港へ向かいゴジラと戦うが瀕死の重傷を負ってしまう。
エネルギーを充填したメカゴジラが出現。ギドラのテレパシー能力を基に開発されたメカゴジラは自らの意思で動き始め、ゴジラと戦う。その圧倒的な力を前にゴジラはとどめをさされそうになるが、リンドの活躍で復活したコングがそれを救う。二匹は共闘してメカゴジラを撃破。ゴジラは海に去り、コングは空洞で暮らし始める。
◆感想(ネタバレあり)
タレントの伊集院光が今作、というよりレジェンダリーが制作した一連の『モンスターバース』について、非常に共感できる感想を語っていたので引用したいと思います。以下の内容は2021年6月28日に放送されたTBSラジオ『伊集院 深夜の馬鹿力』で、今作の試写を観た伊集院光が話していたものです。
僕が物心ついたときには、ゴジラっていうのは毎年、東宝チャンピオン祭りっていういろんなアニメの中に必ず一本子供向けに、ゴジラ対なになにっていうのが入ってるんです。(中略)悪い意味であれは子供向けの“怪獣プロレス”だからって言われているゴジラの時代に、俺は子供だったからベストにそれとマッチングして、その怪獣プロレスをスゲー楽しんでたわけ。で、ある程度の歳までいったところでそれももう廃れちゃってゴジラ辞めちゃう、っていうこの流れが俺にとっての実体験のゴジラ。(中略)子供だましと言われた怪獣プロレスを、あの頃の子供をもう一回だまそうとして作ってくれてるのがこのハリウッドの『ゴジラ』とか『キング・オブ・モンスターズ』とか、あと今回戦う髑髏島にいたキングコングの最初のやつとかが、新たな、大人になってもゴジラが観たいあの頃の少年たちをもう一回だまそうっていう映画で、自分が思ったのはなんかね、きちんと説明しようと思えば「そんなことあるかーい」っていうシーンはいっぱい出てくるんですけど、それを懐かしいと思えるかどうかなんだよね。
ゴジラは確かに放射能の脅威や原爆のメタファーの存在ですが、多くのゴジラファンは伊集院光と同じように、元々は子供のときに怪獣プロレスに夢中になった人がほとんどだと思います。もちろん作品として評価が高いのは1954年の『ゴジラ』なのですが、いきなりこれを観てゴジラファンになった人は少数派ではないでしょうか。良くも悪くも『モンスターバース』はハリウッドの莫大な予算とCG技術で怪獣プロレスが観たい人を満足させるための作品群だと思います。
その点で今作は一定の期待に応えてくれた作品だと思います。間違いなくこの作品でやるべきことの最低限はやり切ったと思います。ただ、期待通りのことをやってくれたことを評価したい反面、期待以上のものは無かったのが今作の残念なところでもあります。
具体的に言えば、怪獣の画的な見せ方に真新しいものがほとんどありませんでした。『ゴジラ2014)』『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』では怪獣の登場シーンが結構良くできていたと思うのですが、今作はコングもゴジラもメカゴジラもとても淡泊な登場の仕方をしてしまいます。コングとゴジラは初出でないから仕方ないとしても、メカゴジラの登場シーンはもう少し気を使って欲しかったと思います(ワーナーが公式にyoutubeに上げているコングの登場シーン)。
唯一新しさを感じたのが、最初のコングとゴジラの海上での戦闘シーンで、ゴジラの尾に船の錨が引っ掛かって引っ張られる状態になり、海中にいるゴジラの姿は見えないにも関わらずゴジラに引っ張られている船は動いているので、ゴジラが迫ってきているのがわかるというシーンです。(↓こちらもワーナーが公式にあげているそのシーンです)
こちらの記事によるとレジェンダリーは東宝との正式な契約には至っていないもののモンスターバースの続編を作成する意向があるようです。今作の監督のアダム・ヴィンガードはもしモンスターバースの新作が出来るなら、
人間の出番は30%くらいで、あとは怪獣。”この手の映画はこういうもの”という常識をひっくり返してほしい
と述べており、継続するとしてもこのシリーズは今作と同じような怪獣バトルとそれに奉仕するためだけの人間ドラマの方針を貫いていくのでしょう。これは別にそういうものだと思って観れば悪いことではない気がします。
ただ、そうなるのであれば今作の怪獣の画的な見せ方は不安を残すものになります。怪獣をどう描くかというほとんど“怪獣大喜利”であるこのシリーズにおいて、ちょっとネタ切れになってきてしまった感が否めませんでした。
コングとゴジラの戦いに決着をつけつつも両方を立てることには成功していて、これは良く考えられているとおもいました。コングがゴジラに負けてしまってもキャラクターとしての魅力を損ねないのは、単に「コングはゴジラに負けたけど、メカゴジラに留めをさした」のような勝ち負けの問題ではなく、全体を通してコングを主人公とする冒険物語に仕立てたことで、これから外の世界を冒険して成長していくコングが既に世界の王として君臨しているゴジラに負けてしまうのは”しょうがないこと”なのだということを序盤から上手く観客に刷り込んでいるからなのだと思います。怪獣の画的な見せ方は新しくなかったですが、キャラクターとしての描き方はやっぱり考え抜いてあるということなのでしょう。
不満も書きましたが総じて悪くはなかったと思います。怪獣のキャラクターを大事にしてくれるこのシリーズは信頼できるので、是非続編を作って欲しいと思います。
◆まとめ
・前作『キング・オブ・モンスターズ』を楽しめた人は楽しめる
・怪獣の画的な見せ方にもう少し新しさが欲しかった
・怪獣のキャラクターとしての描き方はとても良い
セックス・エデュケーション
制作国:イギリス
日本公開日:2019年1月11日(シーズン1/Netflixにて配信)
監督:ベン・テイラー 他
脚本:ローリー・ナン、ソフィー・グットハート 他
出演:エイサ・バターフィールド、ジリアン・アンダーソン 他
あらすじ:性に対して奥手にも関わらず、セックス・セラピストの母を持つオーティス・ミルバーンは、セックス経験がない高校生。母親譲りの性的な知識を武器に、高校で「セックス・クリニック」を開く。
評価:★★★★★
◆感想:ネタバレなし
Netflixの今作のタグには「ティーン向け」が付いています。そのうえこのタイトルなので私はもっとお勉強的な作品、悪く言えば説教臭い話なのではないかと思っていたのですが、そんなことは一切ありませんでした。基本的にはコメディで楽しく観られる作品です。出てくる登場人物みんな愛しくなるような良質の青春ドラマでした。
今作はもちろん性について描かれるわけですが、それを切り口に「自分が真に求めているものは何かを考える」という内省的なテーマと「他者とのコミュニケーション」という社会的なテーマの二つが描かれているように思います。特に前者はシーズン1、後者はシーズン2で色濃く描かれている印象です。前述の通りNetflixのタグはティーン向けとありますが、いずれのテーマも10代の若者に限らず人生の全般に付いて回る普遍的なことなので。どんな年代の人にとっても刺さる話になっています。今作が非常に多くの指示を集めたのはこうした要因があったのではないかと思います。
ビジュアル的な部分では色彩の鮮やかさが特徴的です。これは虹色というカラーがLGBTのシンボルカラーであることと関係しているのではないかと思います。これは文字で説明するのは難しいので是非実際に視聴して感じて欲しい部分です。
また、引用的な挿入歌が多いのも特徴です。歌詞の内容が場面とリンクしているので挿入歌が流れてきたときには英語字幕を出して視聴することをお勧めします。(私のお気に入りはネタバレになるので詳しくは言えませんが↓の″Make Your Own Kind of Music"という曲の流れる場面です。)
余談ですが今作でメイヴを演じたエマ・マッキーはこれが役者デビューなのだそうです。私はちょっとエマ・ワトソンに似てるような気がしたのですが、なんと本人がエマ・ワトソンの演じたハーマイオニーのモノマネをしている動画がありました(↓の動画の4分40秒あたりです)。
世間的にはマーゴット・ロビーに似ていると言われることが多いみたいですね。↓の動画ではマーゴット・ロビーの方がエマ・マッキーに間違われたというエピソードを披露しています。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
オーティスはひょんなことからいじめっ子の同級生アダムの性の悩みを解決する。その場に居合わせたメイヴから料金をとって性の相談を受ける「セックス・クリニック」を開くことを提案され、オーティスは相談を、メイヴが予約を担当する役割分担で活動が始まる。校内で次第に評判となり、オーティスのもとには生徒たちから様々な相談が寄せられるようになる。クリニックの活動の中でオーティスはメイヴに好意を寄せるようになるが、メイヴは水泳部のジャクソンと付き合い始めてしまう。
オーティスの家の風呂の工事のため配管工のヤコブとその娘のオーラが、頻回にオーティス宅を訪れるようになる。ヤコブとオーティスの母ジーンは次第に互いに惹かれあっていく。オーラがオーティスの学校に転校してくることになり、二人も親しくなっていく。
アダムの作文がコンクールで賞を取る。しかしそれは校長である父親に認められたいアダムがメイヴに代筆を依頼したものだった。オーティスはすぐに作文がメイヴのものであると見抜く。メイヴは自分を理解してくれるオーティスに次第に惹かれていくようになり、ジャクソンとの交際を終わらせる。しかし、オーティスはオーラと付き合い始めており、メイヴは自分の気持ちを伝えられなかった。学校のダンスパーティーでメイヴの兄がドラッグを売っていたことが発覚する。兄を庇ったメイヴは停学処分となってしまう。
オーティスの親友でゲイのエリックはかつて自分を虐めてきたアダムと学校の居残りをさせられる。その教室でエリックはアダムにキスをされ、彼がバイセクシャルであることを知る。アダムは父親の意向で士官学校へ転向させられてしまう。(シーズン1)
メイヴはこれまで数々の作文を代筆してきたことをネタに校長に脅しをかけ、学校に復帰。オーティスとクリニックを再開する。メイヴはオーティスに秘めていた自分の思いを打ち明ける。混乱したオーティスはオーラからメイヴとの仲を疑われてしまい、関係がギクシャクしてしまう。そんな中、オーラは自分のセクシャリティがパンセクシャル(全性愛)であること、気持ちが友人のリリーに向いていることに気付く。オーラはオーティスに別れを告げる。ヤケを起こしたオーティスは自宅でパーティーを開き、酔った勢いでオーラとメイヴの悪口を大勢の前で言ってしまい、二人から嫌われてしまう。
水泳部のエースとしての重圧に苦しむジャクソンはわざと怪我をする。学内の演劇のオーディションに出たジャクソンはロミオの役を勝ち取る。演技に自信のないジャクソンは校内の秀才の一人、ヴィヴから指導を受ける。ジャクソンとヴィヴは次第に友情をはぐくんでいく。怪我治り水泳部に復帰できる状態になってしまったジャクソンはもう水泳をしたくないことをレズビアンの二人の母親に打ち明けられなかったが、ヴィヴの後押しで両親と向き合う。
イケメン転校生のラヒームが現れ、エリックと付き合うようになる。しかし、時を同じくして士官学校を退校処分になったアダムが街に戻ってきて、エリックは二人の間で揺れる。リリーが総監督、ジャクソン主演のセクシー版シェークスピアが開演され、その舞台に突如としてアダムが乱入。アダムはエリックに自身の思いを伝え、エリックはそれを受け止める。
薬物依存症メイヴの母がメイヴにとっての異父妹を連れて現れる。母子の絆を少しずつ取り戻していく二人だっが、メイヴの向かいに住むアイザックから彼女の母親がまた薬をやっていると聞かされたメイヴは泣く泣く児童相談所に通報。娘二人と引き離されることになったメイヴの母親は激高する。
父のレミから正直でいろと助言を受けたオーティスはオーラに謝罪し、メイヴには自分の思いを伝えようとするが、メイヴに思いを寄せるアイザックの妨害を受け、彼のメッセージはメイヴに伝わらず終いになってしまう。
更年期障害と感じ病院を受診したジーンは自身が誰かの子供を妊娠しているとわかる。(シーズン2)
◆感想(ネタバレあり)
出てくるキャラクター一人一人が本当に魅力的な作品です。エイミーやルビー、ジャクソンの両親、サンズ先生、ヘンドリックス先生といった主要キャラの動きを受ける側の、つまり脇役のキャラクターにも深みを感じさせるものになっていて群像劇として非常に厚みがあります。
脇役の中でもエイミーは特に優遇されてますね。あまり頭の良いキャラクターとしては描かれませんが、一匹狼のメイヴと最初から友達だったり、ちゃんとスティーブというグットガイを彼氏に選んでいたりと、なんだかんだで一番人を見る目があるキャラクターとして描かれていたのではないでしょうか。
彼女が痴漢にあったトラウマを乗り越えるシーズン2第7話はシリーズを通して最も爽快感のある場面のひとつでしょう。シーズン1の第5話でも女性同士が団結する場面がありましたが、これは恐らく「Me too 運動」を意識したものなのではないでしょうか。
待ちきれないシーズン3ですが、恐らく「家族」というテーマがより掘り下げられるのではないかと思います。オーティスには弟か妹が出来ることが確定しましたし、ジーンとヤコブが再婚した場合、元恋人のオーラまでもが兄弟関係になることになり、非常にややこしい家族関係になります。後味の悪い別れとなってしまったメイヴの親子関係も気になるところですし、家庭にも職場にも居場所を失ったグロフ校長にも救いがあって欲しいと思います。
すれ違った ままになってしまったオーティスとメイヴの恋の行方も気になります。個人的な予想なのですが、この二人はシーズン3の最後で仲直りし交際が始まるのではないでしょうか。ただ、物語全体の最後には卒業後の進路の都合等で二人は別れを選ぶのではないかと思います。オーティスが両親の離婚のきっかけを作ったというトラウマを抱えていることを考えると、彼自身が円満な別れを経験するというのが、本当の意味での彼の救いになりそうな気がするからです。
シーズン3は既に撮影が始まっているようですが、配信日はまだ未定です。シーズン2の直後からは始まらないということのようなので、その辺もどのように物語が展開されるのか気になるところです。
~追記~
Twitterからの情報によると、シーズン3は今年の10月配信のようです。
Sex Education. Season 3. October 2021 ‼️ pic.twitter.com/Nm4Z5UE3PC
— Netflix Updates. (@NetflxUpdates) 2021年6月3日
◆まとめ
・性を切り口に人生に普遍的に大切なものを語る作品
・登場人物全員が愛しくなる魅力に満ちている
マンダロリアン シーズン1、2
制作国:アメリカ(2018)
日本公開日:シーズン1 2019年12月16日、シーズン2 2020年10月30日
監督:デイブ・フィロ―ニ、ジョン・ファブロー 他
脚本:デイブ・フィロ―ニ、ジョン・ファブロー 他
出演:ペドロ・パスカル 他
あらすじ:銀河帝国の崩壊後、銀河系には無法地帯が広がっていた。一匹狼のガンファイターが、賞金稼ぎとして報酬を得ながら、そのアウター・リムをさまよっていく。(Disney+ホームページより)
The Mandalorian | Official Trailer | Disney+ | Streaming Nov. 12
評価:★★★★★
◆感想(ネタバレなし)
↓いろんなところで大好評のマンダロリアンですが、本当にめちゃくちゃおもしろかったです。1話約30分と非常に見やすい尺で、かつしっかりと満足させてくれるクオリティがあります。ストーリー、アクション、美術、どれも素晴らしいです。
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正直に言ってスターウォーズでもうおもしろい作品にで出会うことはないのではないかと思っていました。直近のシークエル3部作の出来がいくらなんでも悪過ぎたからです。個々の作品のクオリティというより、この三部作全体の構成が明らかにまとまっていない中で企画が進んでしまった感じがダダ洩れになっていることに私は非常にがっかりしました。スターウォーズというコンテンツなら適当に作ってもお金儲けが出来る、そんな思惑の基に作られてしまった作品のように思えてならなかったのです。その点今作は、名監督ジョン・ファブローと『クローン・ウォーズ』を成功させたデイブ・フィローニがしっかりと作品の方向性をコントロールしていると感じられます。キャラクターの描き方も丁寧で作り手の作品に対する真摯さがシークエルとは段違いです。ちなみに制作総指揮にはこの二人に加えてシークエルのプロデューサーだったキャサリン・ケネディも名を連ねています。流石はスターウォーズ。制作総指揮もライトサイドとダークサイドでバランスを取ってきます。頼むからキャサリン・ケネディはもう余計なことしないでくれ…。
シークエルが酷評されがちなので目立ちませんが、プリクエル3部作でのアナキンが暗黒面に落ちる流れだって、結構無理があって褒められたものではありませんでした。そういう意味では、本当に久しぶりにスターウォーズで傑作と言える作品が出来たと思います。個人的にはエピソード4、5、6さえも超えてマンダロリアンはおもしろいと思いました。
*以下ネタバレです
◆ネタバレ
賞金稼ぎのマンドーは高額の懸賞金がかかった案件を引き受けるが、そのターゲットがまだ幼い子供であることを知るとその子供を保護し、子供の仲間ともくされる″ジェダイ”を探す旅に出る。賞金稼ぎのギルドの規範に反する行為をしたマンドーと子供は、他の賞金稼ぎから追われる。子供に賞金を懸けた依頼主は死亡したが、その依頼主の背後にいた黒幕である帝国のモフ・ギデオンが子供を追ってくる。マンドーは旅の道中で仲間となったグリーフ・カルガ、キャラ・デューンらとどもにモフ・ギデオンを撃退するが、モフ・ギデオンは死んでいなかった(シーズン1)
旅の中で別のマンダロリアン、ボ=カターンと出会う。ボ=カターンはモフ・ギデオンから彼女の所有物だったダークセイバーを取り戻そうとしていた。マンドーは、彼女からジェダイのアソーカ・タノを紹介される。アソーカはフォースを介して子供と交流し、子供の名前がグローグーであることが判明する。しかし、アソーカは自身がグローグーを訓練することを拒み、グローグーをフォースと強い関係を持つ惑星タイソンに連れていくように助言する。タイソンでグローグーはフォースを使って他のジェダイに自身の存在を示す。しかし、その最中に帝国の襲撃を受けてしまう。その場に居合わせたボバ・フェットとフェネックと共に帝国軍に応戦するが、グローグーはモフ・ギデオンの元に誘拐される。フェネック、ボ=カターンらの協力を得て、マンドーはスターデストロイヤーに潜入する。モフ・ギデオンを倒して、ダークセイバーとグローグーを奪還するが、強力なダークトルーパーに包囲されてしまう。そこにジェダイのルーク・スカイウォーカーが現れ、一行を救出する。マンドーはグローグーに別れを告げ、グローグーをルークに預ける。(シーズン2)
◆感想(ネタバレあり)
シーズン1の1-2話を観ただけでぐっとこの世界に引き込まれました。主人公マンドーは常にマスクをしているので、表情なしでセリフと行動だけでキャラクターを表現する必要があるわけでですが、この冒頭2話で基本的には一匹狼で冷徹な一面もありながら、同時に非常に義理堅い人物でもあるという彼の在り方を過不足無く表現出来ていると思いました。個人的には2話でマンドーがクイールに対して言う″どうか謝礼を受け取って欲しい”というセリフが非常に効いていると感じます。
「仮面をしている父親」というキャラクターは明らかにダース・ベイダーを意識したものだと思われますが、ベイダーとルークとは全く異なる親子関係を築いていくお話になっているのも面白いところだと思います。
DIsney+で観ることが出来るシーズン2のメイキングで、デイブ・フィローニが″懐かしいセットやキャラクターを再現するのは主眼じゃない。それを活かし創作することが魔法なんだ”と述べていますが、まさにその通りで、新しくて面白いものが創れているという、当たり前の(だけど難しい)ことがちゃんと出来ていることがこのシリーズは素晴らしさだと思います。私は海外のファンのリアクション動画を見るのが好きなのですが、下のシーズン2の最終話のリアクション動画を観ていると、ルークが出てくる場面でも確かにみんな興奮しているのですが、一番感情を揺さぶられているのはその後のマンドーとグローグーが別れる場面なのが観てとれます。つまり単発的で懐古的な描写よりも、このシリーズを通して積み上げられてきたものに対しての方がより感動を呼んだということなわけで、それは一つの作品として極めて健全なことだと思いますし、前述のようなコメントをしているフィローニからしても我が意を得たりといった感じなのではないでしょうか。
Fans React to The Mandalorian Chapter 16: "The Rescue"
シーズン3も作られるようですが、キャラ・デューンを演じたジーナ・カラーノは降板が決定しているとのことです。フェネックは恐らく『ザ・ブック・オブ・ボバ・フェット』の方に移行するでしょうから、今後今作のヒロイン的なポジションはボ=カターンが担っていくことになるのではないかと思います。『マンダロリアン』というタイトルからしても、マンドーがダークセイバーを持っているという話の展開からしてもボ=カターンの活躍が増えていくというのは自然な流れなのではないでしょうか。余談ですが、ボ=カターンを演じたケイティ・サッコフという役者さんは、アニメの『クローン・ウォーズ』『反乱者たち』でもボ=カターンの声を担当していた方なのだそうです。実写でもこんなに近い相貌になる人が担当していたなんてほとんど奇跡的なことです。『クローン・ウォーズ』でボ=カターンが初登場したのが2012年のことなので、8年越しの実写デビューということになります。
気になるのは(↑の動画で添野知生さんも言及していますが)、ディズニーが制作を発表した今後のスターウォーズのスピンオフシリーズがあまりにも多すぎるということです(笑)しかも↓の記事によると、デイブ・フィローニとジョン・ファブローはその中いくつかをマンダロリアンと並行して手掛ける形になるようですね。正直あまり手を広げすぎずにマンダロリアンを早く見せて欲しいと思ったり(だいたい、スピンオフで『オビ=ワン』って何なんでしょう。オビ=ワンが主人公の話ってもはやスピンオフではない気が…)。
今後このシリーズがどうなっていくかわかりませんが、少なくともシーズン2までは傑作と言っていいレベルの出来です。シーズン2に関してはデイブ・フィローニが手掛けた『クローン・ウォーズ』『反乱者たち』との関わりが深く、今後それに出てきたキャラクター達のさらなる実写化もありそうですから、この2作と併せての鑑賞をお勧めします。
◆まとめ
・新しくて面白いものが創れている。傑作。