潜水服は蛾の夢を見る

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コンフィデンスマンJP 英雄編

映画「コンフィデンスマンJP 英雄編」オリジナルサウンドトラック(特典なし)

制作国:日本(2022年)

日本公開日:2022年1月14日

上映時間127分

監督:田中亮

脚本:古沢良太

撮影:板倉陽子

出演:長澤まさみ 東出昌大 他

あらすじ:かつて悪しき富豪たちから美術品を騙し取り、貧しい人々に分け与えた「ツチノコ」という名の英雄がいた。それ以来、当代随一の腕を持つコンフィデンスマンが受け継いできた「ツチノコ」の称号をかけ、ダー子、ボクちゃん、リチャードの3人がついに激突することに。地中海に浮かぶマルタ島の首都で、街全体が世界遺産に登録されているバレッタへやって来た彼らは、マフィアが所有する幻の古代ギリシャ彫刻「踊るビーナス」を手に入れるべく、それぞれの方法でターゲットに接近。そんな彼らに、警察やインターポールの捜査の手が迫る。(映画.comより)


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評価:★★★☆☆

 

◆感想(ネタバレなし)

コンフィデンスマンJPはドラマ、劇場版含めて全て鑑賞しています。劇場版に関しては1作目はまずまずの出来だったと思うのですが、前作のプリンセス編はいまいちの出来だったと思っています。ameblo.jp

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良かった1作目も悪かったプリンセス編にも共通するのですが、尺が長いというのはこのシリーズにとっては不利な要素です。結局起こる出来事の全てはダー子たちの掌の上、というのが御約束なので、尺が長ければ長いほど種明かしの時間までが間延びするだけになってしまいます。今作の上映時間は127分。実は過去2作よりも長いのです。この問題をどうクリアするのかが、私が今作を観るうえで一番注目していたポイントでした。

 

結論から言うと、今作はその部分をある程度上手くカバーしています。お話の構造がダー子、ぼくちゃん、リチャードの群像劇的なスタイルに大きく変更され、その上これまで劇場版でお約束だったある二つの要素を破っています。その結果、過去作以上に誰がダー子たちの協力者=子猫たちで、誰がダー子たちのターゲット=お魚なのか観客にわからない作りになっていて、ダー子たちの作戦が完了するまでの間もほとんど退屈しませんでした。

 

ただ、この良くなった要素が足を引っ張った部分もあるなと個人的には思っています。今作は群像劇スタイルをとった結果、ダー子、ボクちゃん。リチャードの3人が完全にバラバラに行動してしまうので、3人のわちゃわちゃした掛け合いは最初と最後の数分ずつしかありません。また、ダー子たちの計画の全貌が最後までわかりくい分だけ、どうしてもこれは何の伏線なんだろうと考えながら観てしまうところが多く、お話としておもしろくはなっているけどコメディとしては減退しているということが結果的には起きてしまっていたように思いました。事実私は公開初日に観たのですが、全然劇場で笑いが起こっていなかったです。

 

また種明かしをされると、じゃあ、あのときのアレは何だったの?という部分もでてきてしまってはいて…これについてはネタバレありのほうで書きたいと思います。

*以下ネタバレです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ネタバレ

ターゲットのジェラール・ゴンサレスにダー子は大使館の職員として、ボクちゃんは画商として接近する。そこツチノコを追うFBI捜査官のマルセル真梨邑、コンフィデンスマンたちを追う日本の刑事の丹波、さらにダー子たちがマルタ島にいると知った赤星も現れる。そんな中、ゴンサレスの妻、麗奈が誘拐される。誘拐の首謀者はリチャードだった。リチャードは踊るビーナスを手に入れ、麗奈は解放されたものの心臓の弱かった彼女は意識が回復しなくなってしまう。罪の意識を感じたボクちゃんは真梨邑にダー子とリチャードを売り、自らも逮捕される。そこに丹波が現れ、赤星が3人盗まれた50億円に対し被害届を出したため、日本警察から3人に対し逮捕状が発行されたと宣言。3人の身柄は日本警察に引き渡される。…というのはダー子とリチャードの計画のうち。元々はダー子のもとにこっくりが現れ、こっくりが寄贈した画がツチノコを名乗る人物に盗まれたと言いに来たのがことの発端。3代目ツチノコはダー子たち3人の師であり、彼の意向で誰もツチノコを継いでいないことを知っていたダー子は真梨邑が勝手にツチノコを名乗っているコンフィデンスマンであると見破る。ダー子はリチャードにだけこのことを伝え、ボクちゃんには敢えて計画の全貌を伏せる。さらに赤星にわざと自分達の情報を流してマルタ島に誘い出す。赤星にこれまで盗んだ50億を返すことを条件に自分達の計画に参加させる。計画を知らないボクちゃんは子猫である麗奈を昏睡状態にしたことに本当に罪の意識を感じ、真梨邑にダー子とリチャードを逮捕させる。しかし、真梨邑がダー子たちを引き渡した日本警察の丹波もまたダー子の子猫だった。ビーナスを手に入れた真梨邑はパリにある自分の隠れ家に持っていくが、ビーナスには発信機が仕込まれていた。真梨邑の隠れ家を突き止めたダー子は隠れ家を丸ごと偽造し、金庫のパスワード手に入れることに成功。中にあった宝物を全て手に入れることに成功。さらに真梨邑の隠れ家に本物のFBI捜査官であるマルセル真梨邑を呼び出して真梨邑と鉢合わせさせ、FBIに真梨邑を逮捕させることに成功する。しかし、その本物の真梨邑は逮捕した真梨邑にコンフィデンスマン3人の逮捕への協力を呼び掛けて…。

 

◆感想(ネタバレあり)

ネタバレなしのところで述べたように、今作はそれまでの劇場版の御約束、コンフィデンスマン3人は計画を共有していること、赤星が騙される側であることの2つを破っています。この内の前者、つまりボクちゃんはダー子とリチャードに騙されていたというのは、個人的にはアリだと思うのですが、ファンの中では賛否が別れそうだなと思いました。

 

それより気になったのは、種明かしを聞くと辻褄の合わないところがあることです。3人がマルタ島で詐欺を競うというのが(一応本当に競ってはいたけど)真梨邑をはめる計画の一部だと五十嵐、ちょび髭、モナコの3人は知っていたわけなので、序盤での3人のダー子との会話は辻褄が合わないものになります。それに丹波が赤星に被害届を出すように土下座をするのも、日本警察というのがフェイクだと知っている赤星に対してやるのは変です。もうこれらのシーンは単に観客を騙すためだけにあるものになっていて、あまり上手くないと思いました。

 

一番問題だと思うのはコミカルな要素が少なくなったことでしょう。コンフィデンスマンJPの劇場版は過去2作もドラマ版に比べると長澤まさみ演じるダー子のエキセントリック感が控えめでしたが、今作は大使館の人間に扮した後は(作戦だけど)詐欺師として逮捕されるので、ダー子のテンションはさらに抑えめになってしまい、ここも残念なところでした。

 

つまるところはやはりコンフィデンスマンJPは映画には向かないというのが動かぬ結論という気がします。物語としての規模が大きくなってしまって、一見シリアスっぽいところが無いといけなくなってしまうというのは、このシリーズに求められる軽妙さと食い合わせが良くないということなのだと思います。今作に関して言えば物語の風呂敷の広げ方が今までと違うのでそこでワクワクはさせてもらえるのですが、コメディとしておもしろかったかと言われると微妙なところで、前作のプリンセス編とは違う意味でコンフィデンスマンJPらしさが削がれてしまっていたように感じました。

 

~追記~

youtubeに本作のメイキングがアップされていたので、貼っておきます。コロナ禍でどうやって撮影したのかと思っていたのですが、こんな方法だったんですね。CG技術、撮影技術とも凄いです。


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◆まとめ

・お話としておもしろいが、コメディとしてのおもしろさが減ってしまっている