潜水服は蛾の夢を見る

主に映画の感想を語るブログです

食べる女

食べる女

制作国:日本(2018年)

劇場公開日:2018年9月21日

上映時間:111分

監督:生野慈朗

脚本:筒井ともみ

撮影:柳島克己

出演:小泉今日子沢尻エリカ 他

あらすじ:雑文筆家のトン子こと餅月敦子は、古びた日本家屋の古書店「モチの家」の女主人。料理をこよなく愛する彼女の家には、恋や人生に迷える女たちが夜な夜な集まってくる。トン子を担当する編集者で男を寄せつけないドドこと小麦田圭子、ドドの飲み仲間であるドラマ制作会社の白子多実子、求められると断れない古着屋店員の本津あかり、いけない魅力を振りまくごはんやの女将・鴨舌美冬ら、年齢も職業も価値観もバラバラな彼女たちを、おいしい料理を作って迎え入れるトン子だったが……。(映画.com)


小泉今日子主演『食べる女』予告編

 

評価:★★☆☆☆

 

◆感想(ネタバレなし)

映画ばっかり観てないで自炊をしようと思う作品でした(笑)。タイトルの通りとにかく食べるシーンがいっぱい出てくる映画です。食事自体が凄く美味しそうとは思わなかったのですが、演じる女優さんたちがとても美味しそうに食べるのでいわゆる「飯テロ」タイプの映画であることは変わりません。

 

Wikipediaによると今作のテーマは「食べる」と「セックス」なのだそうです。この2つだけ聞くと、要するに食欲と性欲の話ですから、「女性もそういう欲望をどんどん出していこう」みたいな話だと思っていたのですが、鑑賞してみるとどうもそういうことではないようです。

ja.wikipedia.org

 今作にには都合3回セックスシーンがあるのですが、この内2回はややネガティブなニュアンスで描かれていて必ずしもセックス全面肯定という感じではありませんでした。

 

物語らしい起承転結がないわけではないのですが、割と淡々と日常が描かれていくタイプの作品です。

 

女優陣はみんな主役ができるレベルの人ばかりなのですが、個人的に特に良かったと思うのは広瀬アリス壇蜜です。広瀬アリスはものすごく美人なはずなのにちょっとダメな感じがとても自然に体現できていたと思います。壇蜜は2児の母の役なのですが、壇蜜が演じるからにはただの母親ではないだろうと思っていたら案の定…という展開が待っています(笑)”あんまり天気がいいから…”のシーンは今作の個人的ベストシーンです。

 

そして主要キャストではないですが、壇蜜演じるツヤコの娘を演じた子役が凄い美少女でびっくりしました。鈴木優菜という役者さんでこの当時まだ12歳ですが、もっと大人っぽく見えました。今のところ今作以外に目立った活動はないみたいですが、役者を続けてこれから出てきて欲しいなと思います。

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*以下ネタバレです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ネタバレ

料理ができないことを理由にマチルダ(シャーロット・ケイト・フォックス)は夫から離婚を切り出される。見かねたごはんやの女将の美冬(鈴木京香)は彼女を自分の見習いにし、敦子(小泉今日子)の家に居候させる。

 

敦子の編集担当のドド(沢尻エリカ)は教習所で出会ったタナベ(ユースケ・サンタマリア)と親密になっていくが、タナベは転勤で北海道に行くことが決まってしまう。

 

夫との復縁に失敗したツヤコ(壇蜜)は娘のミドリ(鈴木優菜)の勧めで、見習いを卒業したマチルダが出て行った後の敦子の部屋に移り住む。

 

◆感想(ネタバレあり)

芸達者の役者さんの演技合戦は楽しいのですが、お話的にはいろいろツッコミどころの多い作品でもあります。

 

最大の欠落は「主要登場人物が働いている描写がほとんどない」というところではないかと思います。もちろんそれぞれの人が何をしているのか「説明」はされるのですが「描写」はされません。例えば鈴木京香演じる美冬は女将の設定ですが、実際に接客をしている場面はありません。雑文筆家という設定の敦子は書いているものが小説なのかエッセイなのかもよくわかないし、その編集担当のドドも敦子のところに原稿を取りに来る以外の仕事シーンはありません(今時編集担当が原稿を取りに家に来るなんてことあるんでしょうか。メールで送らないのかと思ったり)。

 

なぜ働いている描写がきちんと描かれないことに問題を感じるかということ、これがそのまま登場人物の実在感を削ぐことにつながっている気がするからです。前述の通り今作は「食べる」ことと「セックス」という限りなく「生」連想させるテーマの作品です。それを描くには登場人物の実在感、生活感を生々しく描くこととセットだったと思うのですが、今作はどことなく全編を通じて登場人物の描き方が記号的な印象を受けます。

 

お話的にも特にシャーロット・ケイト・フォックス演じるマチルダのエピソードは首をひねらざるを得ないものでした。私は原作を読んでいないのですが、少なくともこの映画を観ただけだと、料理が出来ないから夫から離婚を切り出され、料理が出来るようになったから夫が復縁を申し込んできたようにしか見えません。それって裏を返すと「女は料理ぐらいしないと夫が逃げていっちゃうよ」ということですから、結構感じ悪い話だと思います。マチルダのエピソードは細かいところでもつっこみどころが多くて、例えば修行を始めたマチルダが美冬の料理の手つきに思わず見とれるというシーンがあるのですが、ここで美冬がやっていることと言えばただの長ネギの輪切りという(笑)。他にも終盤お店にマチルダの夫が訪ねてきたときにマチルダが今の自分を見せるために出す料理がブロッコリーにだし汁をかけた簡単な和え物なのですが、料理の腕を見せるのが和え物ってどうなんでしょうか。本人の腕というよりお店の出汁の味の気がするのですが…。

 

細かいところではゲイの小学校教師の白石の紹介の仕方が”半分女”というのも(このキャラクターの描き方自体を女々しいものにしてはいませんが)いかがなものかと思いましたし、最後にみんなで飲んでいるときに酔って眠ってしまった白石に行先も伝えずに出てしまうのってちょっと意地悪な気がします(というかこのシーン、よく考えたら白石もいっしょに行ってしまったら教え子のミドリの家に行くことになってしまうわけですね)。

 

総じて今作の在り方は山田優演じた珠美のセリフに集約されている気がします。珠美は”好きなものだけに囲まれたい”と言って、離婚した夫の子供を妊娠するわけですが、これって夫の再婚相手からしてみたらただのサイコパスです(笑)。でもこういう各キャラクターの我儘を全肯定するのが今作のスタンスなのです。それ自体を悪いとは思わないのですが、今作の場合その割には各キャラクターの描き方記号的なので、その我儘に付き合ってあげたいとは思えないのが大きな問題だと感じました。

 

◆まとめ

・キャラクターの描き方が記号的で実在感がない

・子役の鈴木優菜さんに注目