潜水服は蛾の夢を見る

主に映画の感想を語るブログです

劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer

劇場版仮面ライダージオウ Over Quartzer オリジナル サウンド トラック

制作国:日本(2019)

監督:田崎竜太

脚本:下山健人

出演:奥野壮押田岳 他

あらすじ:消滅の危機にある仮面ライダードライブを救うため、1575年の戦国時代へやってきた常磐ソウゴ/仮面ライダージオウたちは、後世で「魔王」と言われる、かの有名な織田信長と出会う。さらに、そんなソウゴたちの前に「歴史の管理者(クォーツァー)」が立ちはだかり、その傍らには不敵な笑みを浮かべるウォズの姿があった。


『劇場版 仮面ライダージオウ Over Quartzer』特別映像②

 

評価:★★★★☆

 

◆感想(ネタバレなし)

仮面ライダージオウ』のテレビシリーズはオーズ編(10話)まで観た後、アギト編(30、31話)電王編(40話)を観たぐらいなのでものすごく飛び飛びで観ている状態です。主要な登場人物は把握していますが、本編で今何が争われているのかはよく知りません。過去の仮面ライダーのシリーズは『アギト』『555』『電王』『W』『オーズ』『フォーゼ』『ウィザード』『ドライブ』を観たことがあります。

 

今作に関しては『ドライブ』に出てきた詩島剛(演:稲葉友)が登場するということで、ほとんど剛目当てで鑑賞しました。しかし、結論から言うと今作は剛の登場の有無に関係なく非常に良く出来ていたと思います。

 

今作は非常に仮面ライダーというコンテンツ全体に対してとてもメタな作りをしているのが特徴です。今作では仮面ライダーが1年ごとに設定も世界観も一新されて積み重なっているシリーズであるという、ジオウのテレビドラマの中では自明の前提となっていたことが改めて強調されます。そのシリーズの構造を通して「歴史をどう考えるか」というのが今作のテーマになっています。

 

今作は前半の戦国時代に行くパートと後半のクォーツァーと戦うパートの2パートに大きく分かれています。前半の戦国時代パートで、実在の人物である織田信長を例にして非常にわかりやすく今作における「歴史をどう考えるか」を示すので、クライマックスでのソウゴのクォーツァーに対する主張も大変飲み込みやすくなっています。

 

脚本がとても良いと思います。ソウゴをはじめとした主要な登場人物は良い意味で感情の起伏があまり大きくありません。困難な事態に直面してもあまりウジウジせず、事態の解決に向けてどんどん動いてくれるので非常にテンポが良いです。

*以下ネタバレです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ネタバレ

ソウゴ達はクリムの祖先を救うために戦国時代へ向かい、そこで織田信長に出会う。後世で「魔王」と呼ばれる信長の実像は「魔王」とは程遠い人物だったが、結果として彼は長篠の戦で勝利するカギとなる鉄砲を手に入れる。そんな信長の様子を見たソウゴ達は歴史はあくまでのちの人間が作ったものであること、その当時の人々はただ一生懸命にその人の「今」を生きているのだと知る。

 

信長の活躍によってクリムの祖先を救うことができた現代に戻ったソウゴはクリムと剛からドライブとマッハのライドウォッチを預かるが、その直後に時間の管理者を名乗るクォーツァーという集団と遭遇する。そこでソウゴは魔王になるのは自分ではなくクォーツァーの首領であるもう一人の“ときわそうご”であり、ソウゴ本人はこの“常盤SOUGO”にそれらしい過去を付与するための替え玉に過ぎなかったことがわかる。クォーツァーは不揃いな平成ライダーの歴史を消し去ろうとする。

 

ソウゴはクォーツァーに捕らえられるが剛によって助け出される。剛にライドウォッチを託したのは魔王になるからではなくお前だからだと励まされたソウゴは再びクォーツァーに挑む。ゲイツとウォズの協力もあってソウゴはクォーツァーを撃破する。

 

◆感想(ネタバレあり)

 ネタバレなしの感想で述べたとおり、今作は仮面ライダーというコンテンツに対してメタ視点の作りになっているのですが、そのメタ視点を茶化す余裕のあるところが今作の大きな魅力の一つだと思います。冒頭のソウゴの“ジオウが終わって新しいライダーが始まるらしい”というセリフ、第4の壁を越えてくるウォズ、仮面ノリダーの登場、ライダーキックで浮かび上がる平成の文字など、どれも笑ってしまいました。

 

途中漫画版の『クウガ』が出てくるシーンはびっくりしました。ちょっと『スパイダーバース』のパクリっぽい感じはありましたが(笑)、CGが安価になってきた今だからこそ東映特撮の予算でもこういうことが可能になったのだと思います。そういう意味ではやりたいことと技術と予算の釣り合う時代までシリーズを続けられたコンテンツの勝利であり、アニバーサリーイヤーにふさわしい演出だったと思います。

 

ゲストで登場した剛の扱いもとても良かったです。序盤は現行のライダーとの同時変身&共闘、終盤はソウゴを精神的に導き、さらに単独の戦闘で人命救助とファンが観たいシーンはきっちりおさえています。それでいて決してジオウメンバーの邪魔にはならないという見事なバランスになっていたと思います。

 

全体にこのバランスの良さというのは今作品のキーとなっているように感じます。現行ライダーの活躍とゲストライダーの活躍のバランス、コミカルな戦国パートとシリアスな現代パートのバランス、メタ視点に対するシリアスとコミカルのバランス、どれも非上に上手くいっていた印象です。やはり脚本が良いということなのでしょう。

 

仮面ライダー』の劇場版は(すべてを観たわけではないのですが)全般的に脚本に苦しんでいる傾向があった気がします。今作はアニバーサリーの作品だから許される禁じ手を使った印象もありますが、 それでも脚本の良さという点では出色の出来だと思います。

 

唯一残念だったのはドライブを演じた竹内涼真の客演が無かったことぐらいでしょうか。『平成ジェネレーションズ』で佐藤健が出たのでつい期待してしまったのですが…。まあ、こればっかりはしょうがないですね。

 

◆まとめ

仮面ライダーというコンテンツをメタ視点で描いたのが特徴

・物語のテンポが良い

・いろいろな点でバランスが良く仮面ライダーの作品としては脚本が良い