潜水服は蛾の夢を見る

主に映画の感想を語るブログです

アラジン

アラジン (オリジナル・サウンドトラック / 日本語版)

制作国:アメリカ(2019年)

上映時間:128分

日本公開日:2019年6月7日

監督:ガイ・リッチー

脚本:ジョン・オーガストガイ・リッチー

撮影:アラン・スチュワート

出演:ウィル・スミス、メナ・マスード 他

あらすじ:生きるために盗みを働きながらも真っ直ぐな心を持ち、人生を変えるチャンスをつかもうとしている青年アラジンと、自立した心と強い好奇心を抱き、自由に憧れる王女ジャスミン。2人の運命的な出会いをきっかけに、それぞれの願いは動き始める。そしてアラジンは、邪悪な大臣ジャファーの甘い誘いに乗り、魔法の洞窟からランプを引き受けるが……。(映画.comより)


「アラジン」本予告編

 

評価:★★★☆☆

 

◆感想(ネタバレなし)

実はアニメ版の『アラジン』を観たことがなく、今作がアラジンデビューでした。こんなに絨毯が活躍する話とは知りませんでした。もう絨毯が主人公と言っても過言ではないです(過言)。今作を観た後アニメ版も観たので、それと比較しながら感想を書きたいと思います。

 

まず良かったのは役者さんの演技です。ジーニーを演じたウィル・スミスは本当にハマっていました。アニメのアラジンとはまた少し違うエキセントリックさなのですが、それも含めてこの配役は絶妙だったと思います。アラジンを演じたメナ・マスードも良かったです。特に洞窟でのミュージカルシーンのダンスはキレキレでした。

 

お話そのものは概ねアニメと同じなのですが、各キャラクターの設定には微妙にアニメから改変されているところがあります。このうちジャファーの改変は良かったと思います。アニメではただの悪役でしたが、今作では(ごく短いシーンですが)彼の背景が説明され、彼があり得たかもしれないもう一人のアラジンであることが示唆されます。この改変はクライマックスでのアラジンの正しさをより強調する効果もあってとても良かったと思います。

 

逆に良くなかったのはジャスミンの改変…というよりアラジンとジャスミンが出会うシーンの改変です。ここもわずかな改変なのですが作品全体のメッセージを考えるとここを改変した影響は少なくなかった気がします。これについてはネタバレありの感想で述べたいと思います。

*以下ネタバレです

 

 

 

 

 

 

 ◆ネタバレ

魔法のランプを手に入れたアラジンはランプの魔人ジーニーに頼んで王子にしてもらう。ジャスミンと心を通わせるも、ジャファーに正体を見破られランプを奪われてしまう。ジャファーによってジャスミンの国は支配されるが、アラジンの機転でジャファーをランプに閉じ込めることに成功する。父親から国王になることの許しを得たジャスミンはアラジンと結婚することを決める。アラジンはジーニーの願いだった自由をジーニーに与える。ジーニーは恋仲になったジャスミンの侍女とともに旅に出かけ、その道中で子供達にアラジンの物語を聞かせる。

 

 

◆感想(ネタバレあり)

私は字幕版を観たのですが国王のことを“スルタン”と呼んでいました(役名もスルタンだったようです)。世界史はあまり詳しくないのですが、スルタンとはイスラム教における政治的支配者の称号のことだそうなので、今作の舞台はイスラム圏の国であることがわかります。イスラム圏の国は宗教的な社会背景もあって女性の社会進出があまり進んでいないと言われています。

 

今作ではアニメ版に無かった“ジャスミンは王位を継ぎたいと思っている”、”女性であるがゆえに王位を継げないことに憤りを感じている”という設定が加わっています。女性の解放を強調するのは昨今の映画の潮流ですが、今作に関してはイスラム圏を舞台とした物語でそれを描くことに特別な意味があったのではないかと思います。

 

女性の社会進出が重要なことである、ということには全く異論はありません。ただ、その要素がこの映画に上手く織り込まれていたかというとちょっと微妙だったと思います。ジャスミンがこれまでの抑圧に抗う決意を歌い、衛兵を説得して自分に従わせる場面は今作の見せ場の一つなのですが、この話においてジャスミンが王位を継げないのは何かに抑圧されているからではなく、王である父親が過保護だからに過ぎないのです。そのため歌っている歌のテーマと物語とがいまひとつ噛み合っていない印象がぬぐえませんでした。

 

元のアニメは“解放”というのが一つのテーマになっています。アラジンは貧困、ジーニーはランプ、ジャスミンは窮屈な宮殿の暮らしから解放されることを願っています。アニメ版を観るとアラジンとジーニーは明確に解放されたのに対し、ジャスミンは結局王女のままなので、よく考えると確かにジャスミンの解放だけはちょっと曖昧に終わっています。本作はそんなアニメの展開も踏まえて明確にジャスミンが何かから解放される話を描きたかったのではないでしょうか。実際のところはわかりませんがもしそうだったとしたら、今作はその志に物語がちょっとついて来られなかった感は否めません。

 

ただ、ジャスミンについての描写の改変で一番大きかったのはアラジンと出会う市場のシーンの描き方だったと思うのです。追っ手から逃げる場面で棒高跳びで隣の建物に跳び移るシーンがあります。今作ではジャスミンは怖がって跳べず、アラジンに励まされてやっと跳び移ります。しかし、アニメ版ではアラジンが気付いたときには澄ました顔で跳び移り終えているのです。個人的にはここは凄くジャスミンのキャラクターを描く大事な場面で、この差は結構大きかったと思います。今作は女性の解放をテーマとして強く打ち出しているので、ここはやはりジャスミンがアラジン(=男性)の手を借りずとも跳び移れるというアニメ版の表現の方がふさわしかったと思います。

 

この場面に限らず全体的にアニメのジャスミンの方が今作のジャスミンより大胆かつ機転の利く人物として描かれていたように思います。アニメでは終盤にジャファーの気をそらすために、機転を利かせてジーニーの魔法にかかったふりをしてジャファーを大胆に誘惑するという活躍の場面もあります。ここもジャスミンの賢さと大胆さが表れていて好きな場面なのですが、さすがに実写でやるとジャファーが馬鹿っぽいのでオミットしたのでしょう(笑)。ただ、これに準じたジャスミンの賢さが表現される場面が欲しかったです。

 

ネタバレありの感想は結構不満多めになりましたが、お話そのものはおもしろかったですし、ミュージカルシーンも良いですから、どんな人も安心して楽しめる万人向けのエンターテイメント作品ではあると思います。

 

◆まとめ

・役者さんの演技はとても良い。ウィル・スミスはとてもハマってます。

・ジャファーの設定の改変も良かった。

ジャスミンに関してはアニメ版の方が魅力的

・女性の解放というテーマとお話があまりマッチしていないのが残念