『発光妖精とモスラ』中村真一郎、福永武彦、堀田善衛著
『発光妖精とモスラ』は中村真一郎、福永武彦、堀田善衛という3人の文学者によって書かれています。「(上)草原に小美人の美しい歌声」「(中)四人の小妖精見世物になる」「(下)モスラついに東京湾に入る」の3部構成になっていて、(上)を中村真一郎、(中)を福永武彦、(下)を堀田善衛がそれぞれ執筆しています。『発光妖精とモスラ』は東宝が新作の怪獣映画の原作として依頼して書いてもらったという経緯があり、そのせいなのかわかりませんが小説としては短めです。個人的な読んだ感想としては小説というよりあらすじに近いもののような感想を受けました。モスラが日本に上陸した次のページではもう繭を作り始めている、と言えば映画を観た方ならどれだけ駆け足かわかると思います。映画と大きくは変わらないのですが、原作のあらすじを以下にまとめました。
言語学者の中条信一はインファント島の調査に向かい、そこで吸血植物に襲われたところを小美人(アイレナ)の一人に助けられる。小美人がサイレンの音に反応したことに気付いた中条は翌日サイレンを使ってもう一度小美人に再会し、調査団の一同は小美人の存在を知ることになる。(草原に小美人の美しい歌声)
調査団は日本から帰国したが、ロシリカ政府の圧力により調査団はその結果について公表することができなかった。業を煮やした新聞記者の福田善一郎は中条のもとを訪れ、インファント島の原住民の言葉を教えてもらい、単身でインファント島の調査に向かった。そこで福田は原住民からモスラに関する神話を教えてもらう。福田が滞在している間にネルソンがインファント島に現れ、4人の小美人を連れ去ってしまう。福田はその騒動の最中に転倒し気を失ってしまう。ネルソンは日本で小美人を見世物にする。中条は抗議するが小美人は人ではなく、島で採取した私有財産であると論破されてしまう。小美人のショーを観た中条は彼女達が何かに呼び掛けていることに気付く。目覚めた福田は原住民にモスラの卵のところに案内される。福田の目の前でモスラの卵が孵化し幼虫が日本に向かって泳いでいく。(四人の小妖精見世物になる)
帰国した福田と中条が、モスラの上陸の原因がネルソンが小美人を連れてきてしまったことにあることを発表する。モスラは国会議事堂で繭を作る。ネルソンの私有財産権を擁護するロシリカ国は繭になっているうちにモスラを撃退するため熱戦放射機を提供した。しかし、熱戦放射機での攻撃によって熱を持った繭は変態の速度が速められ、モスラは成虫になって飛び立った。ネルソンはロシリカ国のニュー・ワゴン・シティに逃亡していたが、ネルソンの行為に対しこちらでも抗議デモが起きており、ネルソンは何者かに射殺される。ネルソンを追って飛んできたモスラによってニュー・ワゴン・シティは廃墟と化した。福田と中条はロシリカ国の要請でニュー・ワゴン・シティに赴き、小美人の歌声でモスラを空港に着地させた。小美人たちは2人に別れを告げるとモスラの複眼の中に入っていった。モスラはインファント島に戻った後、宇宙に向かって飛び立ち、アンドロメダ星雲をかすめて別の宇宙、反世界へと突入していった。(モスラついに東京湾に入る)
◆原作と映画の違い
主だったのは次のようなところだと思います。
- 原作は小美人が4人。映画は2人。
- 原作には小美人にアイレナという別称がある。
- 原作ではロシリカ国、映画はロリシカ国
- 原作では中条と堀田が別々にインファント島に行く。映画では堀田が調査団の中に紛れ込む形で一緒に行く。
- 調査団がインファント島のことについて話さなかったのは、原作ではロシリカ国に圧力をかけられていたからだったが、映画では人道的な観点から語られなかった。
- 原作では中条に花村ミチ子という助手がいる。映画では花村ミチというカメラマンに代わっていて、堀田と組んでいる。
- 原作には中条の家族について言及はない。映画では弟の信二が登場。
- 原作ではモスラについて“かつてのゴジラよりもさらに巨大にして、狂暴なりと推定される”というニュースが報道されており、かつてゴジラが現れたのと同じ世界線での出来事であることが示されている。映画にはゴジラに関する言及はない。ただし、シナリオの決定稿ではネルソンがゴジラの名前を口にしている。
- 原作のモスラは七里ヶ浜から上陸し、一度海に戻った後再上陸する(再上陸したのがどこなのかは明言されてない)。映画では小河内ダムから現れる。
- 原作ではモスラは国会議事堂に繭を作る。映画では東京タワー。
- 原作ではネルソン達が逃げたのはニュー・ワゴン・シティ(シナリオの第一稿もこの名称)。映画ではニュー・カーク・シティ。
- 原作では中条と堀田だけがロシリカ国へ行く。映画では花村も含めた3人でロリシカ国へ行く。
- 原作では成虫モスラがニュー・ワゴン・シティで放射能を吐いたという記載がある。映画ではその描写はない。
- 原作では小美人の誘導でモスラは空港へ降りる。映画ではモスラの紋章と鐘の音を使って中条たちがモスラを空港へ誘導する。
- 原作ではモスラは小美人を助けた後に宇宙へ旅立ってしまう。映画にはその場面はない。シナリオの段階では第一稿でも決定稿でも宇宙に飛び去るモスラの描写がある。
◆九州でのラストは?
元々映画『モスラ』のクライマックスの舞台は九州になる予定で撮影も済んでいたのですが、コロンビア社からの要望で急遽舞台をアメリカ(劇中ではロリシカ)に差し替えになったという経緯があります。この本には映画『モスラ』の第一稿と決定稿も収録されていて、決定稿の脚本を読むと九州での物語がどんなものだったのかがわかります。以下に紹介します。
中条の弟、信二が中央劇場に忍び込んで小美人を助け出そうとする。信二はネルソンに見つかってしまい、ネルソンの逃亡用のセスナ機に乗せられる。セスナ機が途中で故障し、九州の霧島山脈に墜落する。
同じころモスラは地中を通って横田基地に現れ、渋屋を破壊し東京タワーで繭を作る。
ネルソンは配下とともに仙人洞という洞窟に逃げる。銃で脅された信二も洞窟に連れて行かれる。セスナ機が墜落したところに堀田、中条、花村、警察がたどり着く。現地の木こりの案内で洞窟にたどり着いた一行はネルソン達と銃撃戦になる。
モスラに対し熱戦放射機での攻撃が始まるが、モスラは成虫への変態をとげて飛び立つ。
堀田が洞窟の蔦を使ってターザンのように飛んでネルソンの配下を跳ね飛ばし、ネルソンとも格闘して二人を捕らえる。一行は小美人を山の上に連れて行き解放する。小美人は一行に礼を言う。小美人は歌でモスラを呼び、一行は小美人を残して山を降りる。
東京上空にいたモスラは歌に反応し西に向かって飛ぶ。
ネルソンと配下が警官から銃を奪って逃走し、小美人を奪還するため山を登っていく。ちょうどそこにモスラが現れ小美人を乗せる。ネルソンと配下はモスラに向かって発砲するが、モスラが旋回する風圧で断崖から落ちていく。
モスラはインファント島に着陸した後、再び飛び立ち宇宙に向かって飛んでいく。
こうして改めてシナリオを読むと、東宝としてはいわゆる怪獣映画らしい破壊のパートは完全に幼虫に担わせるつもりだったようですね。
